軍上層部が全面的に支持するレーザー兵器、脅威と直面する兵士は信頼せず
米陸軍は2026年にドローン対処に重点を置いたレーザー兵器の入札を予定し、軍上層部は「弾薬補充が不要な夢の兵器」を全面的に支持しているものの、脅威と対峙する兵士らはレーザー兵器を信頼しておらず、実用上の課題もあっても「ブレークスルーを起こす存在」からは程遠い。
参考:Army readies to launch 2026 competition for counter-drone laser weapon 参考:Will 2026 be military lasers’ breakthrough year?
米陸軍は5年以上も拠点防衛用や車輌搭載型のレーザー兵器開発に資金を投資し、パレット化された10kWのシステム、小型戦術車輌に搭載された20kW~30kWのシステム、ストライカーベースの短距離防空システム=M-SHORADに搭載された50kWのシステムなど様々なプロトタイプ(計11種類)を開発し、運用試験を通じて「1回あたりの迎撃コストが極めて安価だ」と実証され、2026年にドローン対処に重点を置いたレーザー兵器の競争入札を予定している。
出典:U.S. Army photo by Georgios Moumoulidis
但し、レーザー兵器は「有効射程の短さ」「故障率の高さ」「大気の状態に左右される効果」「クリーンルームが要求されるメンテナンス環境」など幾つもの課題を抱えており、軍上層部は「弾薬補充が不要な夢の兵器」を全面的に支持しているものの、実際の脅威と対峙する兵士らはレーザー兵器を信頼していない。
昨年夏の運用試験でM-SHORADを操作する兵士は「50kWのレーザーシステム」と「小型ミサイル」を駆使して脅威を迎撃したが、兵士は迎撃手段に「実績があるミサイルを好む」と判明し、陸軍早期能力重要技術室のラッシュ中将は「レーザーシステムの価値を真に判断するのはコンソールの後ろに座っている二等兵やスペシャリストだ」「彼らが次期迎撃ミサイル、コヨーテ、スティンガーで構成される多層式防衛シールドの一部としてレーザーシステムを運用できるかどうかが重要だ」と述べた。
出典:U.S. Army photo by Venetia Gonzales
レーザー兵器は出力、射程、大気の状態の状態で得られる効果が変化し、この課題をもっとシンプルに解決する方法は「目標への接近」だが、ラッシュ中将は「このアプローチは人気がない」「仮に目標へ接近しても『レーザー兵器に頼る自信』がなければ意味がない」「この課題をカバーするのは無人車輌=UGVかもしれない」「UGVにレーザー兵器を搭載して前線近くに配備すればレーザー兵器の射程を拡張するのに費やす莫大な費用が不要になり、兵士は安全な後方からUGVに搭載されたレーザー兵器を操作でき、効果が劣化する射程距離も短くできる」と指摘している。
レーザー兵器関連の技術が成熟して信頼性を獲得するには時間と結果が必要で、仮にレーザー兵器が信頼できる迎撃手段と認知されても「特性上の課題」があるため、レーザー兵器が短距離防空の主役になるかは何とも言えず、現段階では「多層式防衛シールドを補完・強化する手段に過ぎない」といったところだろう。
出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Jacob Mattingly
因みにMilitary.comは今年3月「夏に展開予定の空母打撃群に加わる駆逐艦にコヨーテとロードランナーを配備する」と報じていたが、アーレイ・バーク級駆逐艦のベインブリッジとウィンストン・S・チャーチルにコヨーテランチャーが搭載されていると確認されたものの、ロードランナーを収めたコンテナがどこに設置されているのかは不明だ。
米陸軍はコヨーテのBlock2とBlock3を計6,700発、国防総省もロードランナーMを500発発注済みで、ドローン迎撃の手段としてレーザー兵器よりも今後広く普及する可能性が高い。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Venetia Gonzales