ステーブルコイン決済、米新法が号砲 カード大手「独占市場」に風穴
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【ニューヨーク=佐藤璃子、斉藤雄太】ドルに連動する暗号資産(仮想通貨)、ステーブルコインの決済への活用が米国で動き出す。仮想通貨企業が電子商取引(EC)サイトの支払いに使える仕組みをつくり、クレジットカードの手数料の高さに不満を持つ加盟店の取り込みを狙う。週内にもステーブルコイン普及に向けた法案の成立が見込まれ、決済市場を独占してきたカード大手との競争が激しさを増す。
ステーブルコインは価格変動の大きいビットコインなどとは異なり、発行者が法定通貨や国債を裏付け資産として持つなどの方法で価格が安定するように設計している。情報サイトのコインマーケットキャップによると、14日夕時点のステーブルコイン全体の時価総額は2616億ドル(約38兆円)で大半がドル建てだ。
仮想通貨交換業大手コインベースは6月、ECサイトの運営者向けにステーブルコイン対応の決済サービス「コインベース・ペイメンツ」を発表した。24時間365日の即時決済が可能なプラットフォームをうたう。米サークル・インターネット・グループが発行するステーブルコイン「USDコイン(USDC)」を受け付ける。USDCは時価総額634億ドルとドル建てコインで2番目に大きく、世界185カ国以上で使われている。
まずはネット通販支援のショッピファイが導入した。消費者はショッピファイで買い物をする際にUSDCでの支払いを選択することができ、同社は決済処理を自動化できるという。
コインベースの2024年の総取引額は約1.2兆ドルと前年の2.5倍に膨らみ、巨大な顧客基盤を築いている。同社によると、ECサイトなどが本格的にステーブルコインでの支払いを導入できるように設計した業界初の決済インフラになるという。
「これまで加盟店はカード決済に2〜3%の手数料を払っていた。ステーブルコインでの決済により、大幅に削減できるようになる」。コインベースのジェシー・ポーラック氏は新しい決済システムの利点を強調する。
米国で一般的なクレジットカードの決済では、米ビザやマスターカードといった国際ブランドのカード大手が消費者と企業、銀行の間で資金のやり取りを円滑にする決済ネットワークを構築している。消費者がカードで決済した際は小売店などが支払う手数料が発生し、店側の大きな負担になっていた。
米調査会社ニルソン・リポートによると、2024年に米国の加盟店がクレジットとデビットカード決済の手数料として支払った金額は1872億ドル。前年比で8.7%増え、過去最高を記録した。
ステーブルコインはブロックチェーン(分散型台帳)上で取引し、従来のカード決済で発生していたカード発行会社やブランドへの手数料がかからない。このため加盟店がカード決済時に負担していた手数料を大幅に削減できる仕組みだ。
米投資銀行ベンチマークのアナリスト、マーク・パルマー氏は「安価かつ即時に世界中に送金できるという特徴は決済市場のゲームチェンジャーとなる。特にカード手数料に不満を持っていた加盟店にとってはメリットが大きい」と分析する。
コインベースだけではない。米メディアによると、小売り大手ウォルマートやアマゾン・ドット・コム、旅行会社のエクスペディア・グループ、航空会社などがステーブルコインの発行を検討しているという。
盛り上がりの背景には、米政権と議会によるステーブルコインの振興策がある。
米議会上院は6月17日、ステーブルコインの規制の枠組みを定めるGENIUS(ジーニアス)法案を可決した。発行者に規制当局からの認可を求めるほか、法定通貨と1対1で価値を裏付ける準備金として米ドルや同等の流動性資産を持つことを義務付ける。コインの透明性や信頼性を高め、決済などの経済活動で利用できるようにする狙いだ。
米下院は週内にも同法案を採決する見通しだ。トランプ氏は15日、自身のSNSで「ジーニアス法により我が偉大な国は中国やヨーロッパなど、あらゆる国々を何光年も引き離すことになるだろう」と投稿し、法案の早期成立を促した。
ステーブルコイン発行などの事業を手掛けるバスティオンのアレックス・バジェノフ氏は、同法案の上院可決が「幅広い企業が、デジタル資産をどう活用できるか本格的に模索し始めるきっかけとなった」とみる。
ジーニアス法案の上院可決前と比べ、コインベースやサークルの株価は4〜5割ほど高い水準だ。カード大手のビザの株価は可決後数日で5%、マスターカードは同6%下落した。ステーブルコイン決済の普及で、これまで決済市場を支配してきた両社の優位性が揺らぐとの見方を映した。
課題も残る。国際決済銀行(BIS)は6月公表の報告書で「1コイン=1ドル」と等価での交換が完全には保証されていない点や不正利用されやすいといった問題を挙げ、ステーブルコインが通貨として機能するには「不十分」と厳しい評価を下した。
コインベースのポーラック氏は「米国などの先進国ではカードのタップ決済のような既存の強力な決済システムがある。(ステーブルコイン払いの)普及には時間を要するだろう」と話す。競争は始まったばかりだ。
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