理想と乖離した現実…育成は「ほぼ排除した」 小久保監督の前半戦総括、流れを変えた一戦は?

 21日の西武戦(ベルーナドーム)に4-1で勝利し、前半戦を終えたホークス。4月を終えた時点でリーグ単独最下位と苦しんだが、5月以降は本来の力を取り戻し、交流戦では6年ぶり9度目の優勝を飾った。ここまで89試合を終えて51勝34敗4分けで、首位の日本ハムに2ゲーム差の2位につけている。

 開幕直後から近藤健介外野手や柳田悠岐外野手、正木智也外野手といった主力が相次いで故障で離脱するなど、近年でも例を見ない苦境もあった。一方で柳町達外野手や野村勇内野手といった中堅選手が、その穴を埋める活躍を見せたことは大きな収穫だ。前半戦を総括した小久保裕紀監督の主な一問一答は以下の通り。

――前半戦の手応えは。 「日本ハムは予想通り強いなという印象ですけども。優勝争いからはみ出すことなく、十分そういう位置にいるかなと思います」

――想定通りだったところは。 「想定通りは少ないですね、正直。ピッチャーで勝つ、守りを含めたバッテリーで勝つというところがないと勝てないんですけど。そこは先発ピッチャー陣がしっかりゲームを作って、中継ぎ、抑えで締めるっていう形が今はできあがっていますけど。(ロベルト・)オスナの離脱もありましたし、勝ちパターンの8回で考えていた(ダーウィンゾン・)ヘルナンデスも怪我もあり、また調子も上がらなかったっていうところは想定外でしたけれども。結果的に今の時点では想定していたような投手の運用はできていますね」

――想定外だった部分は。 「皆さんも記憶に新しい通り、主力がこれだけ怪我するかというのが想定外のシーズンでしたよね」

――難しかった部分は。 「難しいという感じはあまりしなかったですね。いないものはいないので。自分にいつも言い聞かせたのは、120名を預かる大所帯の1軍監督なんでね。だからホークスの中では、『今預かっている31名が最強のメンバーだ』と言い聞かせて。どれだけ主力が怪我をしたとしても、ホークスの中では今選んでいるメンバーが最強だっていう中で、じゃあきょうはこのピッチャーに対して『誰が対応できそうかな』みたいなことでスタメンを決めていたんですけど。やっぱり野村勇やね。あとは柳町達。彼は今ちょっと状態を落としていますけど、彼らが非常に替えの利かないというか、主力が戻ってきても簡単に明け渡さない、そこまでの選手になってきたのかなっていう感じはしますね」

前半戦のキーマンは…「一番やってくれたかな」

――支配下登録された山本恵大選手の活躍は? 「そうですね。柳田(悠岐)が自打球で離脱して、すぐに支配下登録してもらったんですけど。さすがに最初に(1軍に)来た時は、すぐに結果を出したいっていう思いが強すぎて。2軍でものすごく打っていた時の間合いとか、ボールの選び方ではなくてね。結果をほしがっていた選び方だったので。結果は出なかったので、1回すぐに落としたんですけど。もう1回チャレンジして、結果を残すには何が必要かっていうことを、その後も2軍でずっとやっていたんでね。最終的には(打率)3割8分近く打っての再昇格なので。さすがに2軍でも3割8分打つと、1軍のある程度のピッチャーに対しては対応できるんだなっていうのは今感じていますね」

――前半のキーマンは。 「やっぱり(リバン・)モイネロですかね。ほぼほぼ中6日で(投げてくれて)。先発転向2年目ですよね、まだ。それで前半戦はほぼフルで投げて、しかもあの防御率と勝ち星っていう。ピッチャーでは1番やってくれたかなっていう感じはしますね」

――印象に残っているシーン。 「どうですかね……。開幕3連敗ですか、やっぱり。4月は本当に苦しかったですよね。借金6で終わってしまったんですけど。4月は本当にやることが全くうまくいかない中で、もがいたなっていうのがあるので。劇的な勝利を挙げた試合というよりは、苦しかった時期とか、そういう方が記憶に残っていますね」

――心の中では葛藤があった。 「勝った負けたというよりは、大きく連勝した後に大きく連敗、5連勝、5連敗を早い時期に3回繰り返したので。そういうところも含めて、なかなかチーム自体が落ち着かないなっていう印象を持っていましたし、その中で主力がどんどん離脱していったというね。そういう時期だったので。それをうまく5月に入ってから立て直すことができましたし、交流戦はもちろん優勝は狙っていなかったんですけどね。カード勝ち越しという目標を掲げながらやってきた結果、やっぱり自分たちの戦いができてきたのが、この5月、6月だったかなと思いますね」

――課題を感じたところは。 「課題として感じた部分……。理想と現実があるじゃないですか。理想として僕はあまりオーダーをいじりたくないんですけど、いじらざるを得なかったっていうところですね。山川(穂高)を4番から外すときの決断もそうでしたし、スタメンから外すときの決断もそうでしたしね。本当にすぐに行き着いたわけじゃなくて、やっぱり数日、数週間としっかり考えた上で、ここがリミットかなっていうものを設定しながらやってきたことなんでね。本人も今、非常に歯がゆい思いをしていると思いますけど、『このシーズンがあったおかげでホームラン400本くらい打ったね』とか、『40(歳)までできたね』みたいな、そういうきっかけのシーズンにしてほしいなと思います」

「固定オーダーを決められなかったのは課題といえば課題ですけど。でもそれはもう理想なんでね。あとは日替わりのキャッチャーですね。本来は正捕手が(週6試合のうち)4試合で、新しくチャレンジさせる枠が2試合くらいのプランではいましたけど。蓋を開けてみれば、毎試合キャッチャーが違うわけで。これも理想と現実っていうことを考えた時に、勝つためには日替わりでも仕方がない。仕方がないというか、こっちの方が勝つ確率が高いだろうというふうに決断して、チームを作ってきた。課題が出ればその都度埋めていけばいい、消化すればいいという考えでやってきましたけどね」

後半戦のポイント「捉えられないと厳しい」

――後半戦のポイントは? 「1番は日本ハム戦じゃないですかね。(球宴後)すぐに直接対決が始まって。そこでしっかり捉えられるチーム状態にならないと、やっぱりペナントを制するのは厳しいと思いますね」

――ファンに向けて。 「4月はほとんどここ(みずほPayPayドーム)で勝てていなかったので、どうなることかと思いましたけどね。心配したファンの方が沢山いらっしゃったと思うんですけど、まあ十分優勝を狙える位置で踏みとどまっていますしね。(シーズン)後半は当たり前ですけど、ピッチャー陣を中心として、最少失点で相手よりも1点でも取って逃げ切るというね。その勝ちパターンで何とか逆転優勝を目指して頑張ります」

――5月にチーム状況が好転した要因をどう考える? 「要因は挙げられないですね。都度都度、勝つために必要な決断を下した結果なので。コーチに提案をしてもらって、それを受け入れて、実行するの繰り返しなので。ただ、一番は勝ちパターンと考えていたリリーフ陣が4月に失点を重ねましたけど、5月以降は普段通りの力を出してくれて、勝てる試合を勝ち切れたことが大きかったとは思います」

――川瀬晃選手がサヨナラ打を放った5月2日のロッテ戦は大きなターニングポイントになったのでは? 「あの試合が一番ですね。先ほどの質問で言い忘れていました(笑)」

――あそこで敗れていたら、ズルズルと言っていた可能性も。 「そうなっていたでしょうね。それくらい分岐点となった試合ではありました。5連敗を喫していた中でエースの有原(航平)を立てて、初回にポランコに3ランを打たれて始まった試合だったので。9回2死から3点ですからね。振り返ったらあの試合がきっかけになったというくらいのゲームでした」

ぶれなかった決断「選手やメディアに…」

――コーチからの提案で驚いたことは? 「驚いたことはないですけど、今年は初めてそれぞれの担当コーチに担当外の分野の提案も出してもらったので。こういう状況で勝つための提案を考えてくださいと。その中で今できる、できないを分類して、取り入れて言った形です」

――今季大きな決断を下してきたが、大事にしている信念は? 「今年は勝つ確率が高い方を選びましたね。育成だったり、期待を込めて若手を育てるとか、ほぼ今年は自分の中で排除しながらやりましたね。例えば大津(亮介)を変えるタイミングだったりを含めて。あと1イニング投げさせれば彼のためになるだろうという場面でも、勝つためにはこっちの方が確率が高いだろうと。選手がどう思うかや、メディアがどう思うかといった要素が決断に入らなかったところはぶれなかったですね。それは今後もぶれることはないと思います」

――決断を下す時に背中を押すものは? 「逆に楽というか。勝つためだけなら非情になれるので。与えられた仕事を全うするためには答えを出して決断していかないといけないので。2軍監督の方が逆に難しいですよ。すぐに1軍へ上げる選手と、中長期的にレギュラーを狙わせる選手、2、3か月後をめどに調整させる選手といますから」

――前半戦に感じた日本ハムの強さは? 「新庄監督も言っているように、オーダーを3つ組めるようなチームになっていますよね。クイックが課題のピッチャーであれば、足の早い選手を並べたり。レイエスや清宮を外しながらもこれだけの貯金があるので。4年間の積み重ね、選手層の厚みを感じています。パワーピッチャーもそろっている中で、(山崎)福也や加藤貴といった軟投派もいてバランスの良さも感じていたので。なんとか直接対決で勝つことが逆転優勝につながっていくと思います」

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)

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