日本を「最速」で守れるのは戦闘機だけ…50年以上前の「長寿モデルF-15」が重宝されている2つの理由 「スクランブル発進」の回数が圧倒的に多い基地とは
日本の領土を空から守っているのが航空自衛隊だ。F-15戦闘機パイロットとして任務についていた元航空自衛隊隊員の前川宗さんは「外敵に上陸される前にできるだけ速く、より陸地から離れたところで抑止するために装備されているのが戦闘機だ」という――。
※本稿は、前川宗『元イーグルドライバーが語る F-15戦闘機 操縦席のリアル』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
「ひと昔前の戦闘機」が主力になる不思議
現在、航空自衛隊は3機種の戦闘機を配備しています。最新鋭のステルス性能を持ったF-35、F-16を日本の運用に合わせて改造開発したF-2、そしてF-15です。保有機数ではF-15がもっとも多く、現在200機程度が全国の各基地に配備されています。
F-15はある意味、「特別」な戦闘機といってよいでしょう。アメリカで開発され、1972年にアメリカ空軍で運用が始まって以来すでに50年以上、自衛隊に導入されてからでも、すでに40年以上が経たっています。
たとえば、自動車であれば、40年前といえば明らかに「ひと昔前のクルマ」です。しかし、F-15はいまだに日本の国防を担になう主たる戦闘機という位置付けにあることは間違いありません。世界的に見ても、アメリカ、韓国、シンガポール、サウジアラビアなどで現在も運用されています。
50年以上つくり続けられている理由
2025年で戦後80年。広島と長崎に原爆が投下され、戦争が終結して、その約10年後に自衛隊が発足しました。以来約70年、その半分以上の年月で運用されてきた戦闘機――それがF-15なのです。
さらにいえば、自衛隊よりも長い歴史のあるアメリカ軍、彼らは常に最先端の戦闘機の開発を続け、さまざまな“最新鋭戦闘機”を世に送り出してきました。にもかかわらず、開発から50年以上経った今でもつくり続けている戦闘機、それがF-15なのです。
F-15が「特別」である所以――それは、「非常によく考えられた戦闘機」であるからともいえます。
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初めてF-15を目の前で見たとき、先輩パイロットから「戦闘機」と「国防」について貴重な話を聞きました。
日本の空を守るということはどういうことか。 国民の命を守るということはどういうことか。 国有財産を守るということはどういうことか。 自衛隊が活躍するということはどういうことか。
自衛隊の存在意義は……。
入隊直後だった18歳の私にとって、このときの先輩パイロットの話は、正直なところすべてを理解することができませんでした。
「あのとき、先輩が伝えようとしていたことが、やっとわかった」と感じたのは、自衛官になって10年経ったくらいの頃です。練習機や戦闘機といった飛行機に合計1000時間ほど乗ったくらいの時期でした。それまでありとあらゆる教育を受け、実際に経験してようやく、先輩の話を理解できたと感じたときは鮮明に覚えています。後輩に教育できるようになったのもこの頃でした。
外敵の脅威に「迅速かつ確実に」対応する
日本は島国、四面環海です。
国を守るには東西南北、360度警戒を要します。もしも外敵の脅威があるなら、上陸されてからでは遅すぎます。国民の命や国有財産を守るためには、より陸地から離れたところで抑止しなければなりません。
できるだけ国土から遠いところで、いち早く相手の意図を察知し、攻撃の意思があるなら事前に止める。そのためには、できるだけ速く、そこに到達しなければなりません。現時点でそれが可能なのは、戦闘機だけです。
だからこそ、速さと確実さを追究する。「迅速かつ確実に」――これは、戦闘機パイロットの世界において、よく使われるフレーズです。
とにかく速く目的の地点に到達する。相手が攻撃してきた場合に備えて武器を搭載する。日本を守る、という意味では、護衛艦や現在開発中の空母もそうですし、陸上では戦車もそうでしょう。どれも重要で、それぞれ用途が異なります。そのなかで、第一線で日本を守る装備、それが戦闘機なのです。