「スタグフレーション」トレード浮上-米株急落乗り切る勝利の戦略
トランプ米大統領の行きつ戻りつする関税戦争に端を発した米国株急落が3週目に入り、避難先となるような勝利戦略はほとんど見当たらない。しかし、今まさに成功している戦略がある。スタグフレーションに陥る経済の中で成長する銘柄に賭ける取引だ。
ゴールドマン・サックス・グループのバスケットは、商品やヘルスケアなどのディフェンシブセクターをロング(買い持ち)にし、消費者の裁量の大きいセクターや半導体、不採算のハイテク株をショート(売り持ち)している。
この組み合わせは11日時点で、同社の米国ロングショート・バスケットの中で、今年のベストパフォーマンスを記録。S&P500種株価指数の5.3%下落に対して20%近く上昇している。
12日に発表された米国の統計は消費者物価上昇が4カ月で最も緩やかなペースだったことを示し、トレーダーに幾分の安心感を与えた。しかし、輸入関税が、インフレと成長低迷が同時に起こるスタグフレーションを引き起こす可能性を懸念する投資家もいる。
エバコアISIの株式・クオンツ担当チーフストラテジスト、ジュリアン・エマニュエル氏は「既に提案・検討されている通りの関税が長期間課された場合、成長は大幅に減速し、インフレ率は大幅に上昇することわれわれの政策分析は示している」と述べた。
エバコアは、米国内総生産(GDP)成長率が年率1.5%を下回り、一方で個人消費支出(PCE)コア価格指数に基づくインフレ率が3%を超える場合、スタグフレーションが発生するとしている。
それが現実になれば、同社の弱気シナリオが発動され、S&P500種は年末までに現在の約5600から5200まで値下がりし得るという。
景況感の悪化により、既に多くのエコノミストが米経済の見通しを下方修正している。ゴールドマンのチーフエコノミスト、ヤン・ハッチウス氏は10日、2025年の成長率予想を2.4%から1.7%に引き下げ、インフレ率予想を上方修正した。ウォール街のストラテジストらは米国株のパフォーマンスについて、より悲観的になっている。
米国の優良企業の業績見通しも悪化している。米国の大手航空会社2社は業績予想を大幅に下方修正。米国の消費動向のバロメーターである小売り大手ウォルマートも先行きの弱含みを警告している。
勝ち組
スタグフレーションのシナリオにおける勝者は誰か。一般的に、景気がどんなに低迷していても安定したキャッシュフローを生み出す企業がこれに該当する。ヘルスケアやエネルギー、生活必需品といったディフェンシブセクターは、S&P500種構成銘柄の中で25年のトップクラスのパフォーマンスを残している。
ゴールドマンの米カスタムバスケットチーム担当バイスプレジデント、ファリス・ムラッド氏は「ポートフォリオの再編成を検討し、スタグフレーションの可能性の高まりに対するヘッジを求める投資家に、当社の『スタグフレーション』ロングショート・ペア・バスケットを勧める」と10日のリポートに記した。
連邦準備制度がインフレ抑制のために積極的な利上げを開始した22年以来、このバスケットは通年ベースでS&P500種を上回る運用成績を達成できていない。
リンベスト21の創業者で最高経営責任者(CEO)のデービッド・リン氏は、コストをうまく消費者に転嫁できる安定した消費者需要を持つ企業に注目することを勧めている。有利な規制環境を背景に公益株やヘルスケア株が好調に推移する可能性があると同氏は述べた。
人工知能(AI)を駆使したリン氏のポートフォリオモデルによると、消費財大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)やプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、多様な製品群をてこにスタグフレーション環境下で好成績を上げる可能性がある。
エネルギー部門では、ネクストエラ・エナジーが再生可能エネルギー需要の拡大をうまく取り込むことができるとリン氏はみている。同需要は景気減速やインフレ上昇の中でも衰えない見込みだという。
原題:Stagflation Trade Emerges as Rare Winner in US Stock Market Rout(抜粋)