原発「空」の防衛に限界 法規制も「強制力」なし 玄海原発〝ドローン〟侵入

九州電力玄海原発の(手前から)4号機と3号機=2024年4月、佐賀県玄海町

佐賀県の九州電力玄海原発上空にドローンとみられる光る物体が侵入した。物体は飛び去り、操縦者や意図などは不明だが、テロ攻撃や偵察の意図があった可能性も捨てきれない。テロの標的になりかねない原発は陸海空で厳重な警備が敷かれ、原発と周辺地域上空のドローンの飛行は法律で原則禁止されている。ただ、「強制力」はなく、侵入を事前に防ぐことは難しいため、対応には限界があるのが現状だ。

原発や関連施設に対する警察や海上保安庁の警備は、2001(平成13)年に起きた米中枢同時多発テロを契機に本格化し、23年の東日本大震災以降、さらなる強化が進められてきた。

警察当局は全国のすべての原発に「原発特別警備部隊」を配置し、24時間態勢で警備に当たる。爆発物やNBC(核、生物、化学)テロなど、あらゆる事態を想定し、サブマシンガンやライフル銃、防護服などを装備する。

沿岸部に立地せざるをえない原発には洋上テロに対する懸念もあり、海上保安庁も警備を重視。武器搭載の巡視船艇を配備するなどしている。

さらに、空からの攻撃にも備え、原発と周辺地域の上空でドローンなどを飛行させることは、安全性に関わるため法律で原則として禁止されている。無登録のドローンを飛ばすことも法に抵触し、令和5年には北海道電力泊原発(北海道泊村)の敷地から50メートルの海岸で国に登録していないカメラ付きドローンを飛ばしたとして、男が逮捕された。

警察庁の露木康浩前長官は昨年9月に東京電力福島第1原発の警備の状況を視察した際、「ドローン対処も含めて訓練の高度化などを進めていきたい」と述べ、原発を巡るドローン対策は重要視されてきた。

その背景には、ロシアによるウクライナ侵略で原発を標的とした攻撃が続いていることもあるとみられる。ウクライナのゼレンスキー大統領は今年2月、1986年に爆発事故を起こしたウクライナ北部のチョルノービリ原発が、ロシア軍のドローン攻撃を受けたと表明。国際人道法(戦時国際法)では原発を攻撃してはならないと定められているが、狙われる脅威は現実のものとなった。

原発周辺の地上警備は厳重な一方で、空からの侵入を事前に防ぐことが難しい現状もある。今回の飛行物の意図などは分かっておらず、関係者は「真相の解明が必要だ」としている。(宮野佳幸)

重要施設で相次いぐドローン飛行

ドローンを巡っては、「重要施設」上空などでの飛行が相次いで確認されている。

平成27年4月、首相官邸の屋上で、放射線を示すマークが貼られた容器を積んだドローン1機が見つかり、微量ながらセシウムが検出された。威力業務妨害容疑で警視庁に逮捕された男は「原発政策に不満があった」などと供述。男は九州電力川内原発(鹿児島)も狙っていたとされる。

皇居近くの北の丸公園(東京)の上空では令和元年5月、警戒中の警視庁機動隊員がドローンのようなものが飛行しているのを見つけた。元年10月と11月には関西国際空港(大阪)で、ドローンのような物体の飛行が目撃され、航空機の離着陸が一時停止された。

海上自衛隊横須賀基地(神奈川)に停泊中の護衛艦「いずも」をドローンで空撮したとみられる動画が6年3月に中国の動画投稿サイトに投稿されていたことも判明した。動画はX(旧ツイッター)にも転載され、拡散。Xには米海軍横須賀基地で原子力空母「ロナルド・レーガン」をドローンで空撮したとする動画も投稿されていた。(吉沢智美)

板橋功・公共政策調査会研究センター長の話

公益財団法人「公共政策調査会」研究センター長・板橋功氏(本人提供)

今回の事案の目的は①悪意を持った攻撃②面白半分で原発敷地上空に入る「マニア的行為」③他国や特定の思想を持つ人らによる情報収集-の3つが考えられる。ただ、①は実際の攻撃がなく、③についても夜間で視認性が低い中で行う意味があるのかは疑問だ。

3機のドローン様のものが確認されたが、プログラムであらかじめ飛行ルートを指定して飛ばすことができるため、組織的な行為かも不明だ。

ドローンはバッテリーの持ち時間や積載量など性能が向上しているが、原発施設は堅牢(けんろう)で、ドローンによる攻撃を受けても大きな影響はないだろう。電波妨害などによる対策も考えられるが、広大な施設周辺をカバーするには莫大(ばくだい)な予算が必要で、整備に利用者の負担も強いることになり、現実的といえるだろうか。

今後の対応として、小型無人機等飛行禁止法の罰則強化による抑止力強化や、事業者と警察当局との連携体制の再確認などが考えられる。今回の事案は明らかな違法行為で、処罰に値する。背景などを確認するためにも行為者の早期特定が必要だ。(聞き手 宮野佳幸)

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