角田裕毅に追い風か「できる限り時間を与えたい」とメキーズ ― 決定”先送り公算大”、リンブラッド躍動のメキシコで急展開

レッドブルが2026年のドライバーラインナップ決定を先送りする公算がさらに高まった。ヘルムート・マルコは「メキシコGP後に決定」との方針を繰り返してきたが、チーム代表ローラン・メキーズは、角田裕毅の好調を背景に「急ぐ必要はない」と明言した。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

フリー走行中、メルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリとフレデリック・ベスティをリードする角田裕毅のレッドブルRB21、2025年10月24日(金) F1メキシコGP FP1(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

方針転換の裏に潜む角田の好走

方針転換の背景の一つとしては、角田の直近の活躍が考えられる。

角田は直近3戦で16ポイントを獲得するなど、シーズン後半にかけて再び好調の波に乗っている。メキシコGPのFP1直後にイギリスの衛星テレビ局『Sky Sports』の取材に応じたメキーズは、この点に言及し、「急いで決定する必要はない」と強調した。

「ユーキや我々の他のドライバーたちに、できる限り時間を与えたい。メキシコの後に決定するかもしれないとの発言は承知しているが、実際には急ぐ必要はない」

「ユーキはオースティンで本当に素晴らしいレースをしてくれた。時間をかけて検討し、準備が整ったと感じた時点で決定する。急ぐ必要はない」

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ピットウォールからフリー走行1の様子を見守るローラン・メキーズ(レッドブル・レーシング代表)、2025年10月24日(金) F1メキシコGP(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

一方で、レッドブル育成プログラムに所属するアーヴィッド・リンブラッドの存在も無視できない。メキーズの発言のタイミングからすれば、方針転換の直接的な要因ではないものの、今後の判断材料に加わる可能性は高い。

メキシコGPのフリー走行1では、角田を上回る6番手タイムを記録。ルーキーとして唯一トップ12入りを果たし、マルコから「非常に満足」との高い評価を受けた。

単純比較は禁物、それでもリンブラッド高評価

ただし、リンブラッドの好タイムは、角田とは異なる走行プログラムで記録されたものであり、単純な比較はできない。

角田は残り25分の時点でベストラップを記録し、その後ハードタイヤでロングランを継続。一方のリンブラッドは残り10分のタイミング、燃料が軽い状態で自己ベストを更新した。トラックエボリューション(路面の改善)の影響も大きく、表面的なタイム差に大きな意味はなかった。

メキーズは「アーヴィッドには燃料が少ない状態で走らせた。通常のFP1でやるような燃料量を変えるプログラムによって余計な複雑さを与えたくなかった」と説明し、「(角田とは)少し違うプランだった」と指摘した。

一方で「それでも彼は本当によくやった。あの状況でマシンに乗るのは難しいのに、すごく良い仕事をした」とも語り、リンドブラッドの走りを高く評価した。

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フリー走行1に向けてパドックを歩くアーヴィッド・リンブラッド(レッドブル・レーシング)、2025年10月24日(金) F1メキシコGP(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

リンブラッドが感銘を与えたのはメキーズだけではない。マルコは次のように語る。

「アーヴィッドにとっては難しい状況だった。“絶対にクルマを壊すな”と言ってあったからね。それでも彼はきっちり走り、ルーキー最速タイムを記録した。技術的なフィードバックも素晴らしかった。本当に満足している」

リンブラッドの印象的な走りが、2026年のシート争いに新たな風を吹き込んだ可能性は高い。

「メキシコGP後」という当初の方針は、完全に後退した形だ。

メキシコGPのFP1を経て当のマルコも、「幾らかの答えは得ているが、ドライバーラインナップがどうなるかは言えない。少し待ってから決定する。ここでのレースを見た上で、少なくとも何らかのコメントはするつもりだ」と曖昧な姿勢を見せた。

決定延期の兆しが見られたのは、フェルスタッペンが完勝して逆転タイトルの現実味を高め、角田が13番手スタートから7位入賞を果たした前戦アメリカGP決勝後のことだった。マルコは前日の予選後まで「メキシコGP後に決定する」という従来の方針を繰り返していたが、その24時間後に一転して、決定を先送りする可能性を初めて示唆した。

レーシング・ブルズのチーム代表アラン・パーメインもまたメキシコGPのFP1後に、延期の可能性を強く示唆した。

「確かにメキシコの後になるというのは正しいが、ブラジルやラスベガスの後になるかもしれない。あまり文字どおりに受け取らないでほしい!」とパーメイン。

さらに「我々には5人のドライバーがいる。確実なことは、マックスがうちのクルマに乗らないということだけで、我々はまだ状況を見極めているところだ」と付け加えた。

パーメインの言う「5人のドライバー」とは、フェルスタッペン、角田、ローソン、ハジャー、リンドブラッドを指す。フェルスタッペンを除く4名が、レッドブルの1シートとレーシング・ブルズの2シートの計3枠を争う構図だ。

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スプリント前のグリッドで話をするアイザック・ハジャーとアラン・パーメイン代表(ともにレーシング・ブルズ)、2025年10月18日(土) F1アメリカGP(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)

決定を先送りする背景には、現ドライバーたちの集中力を維持する狙いもあるようだ。

「どちらのチームもコンストラクターズ争いがかなり接戦だから、来年のドライバーについて今あれこれ話すことは、チームの秩序を乱しかねない」とパーメインは説明する。

パーメインの発言を額面通りに受け取れば、選手権争いはシーズン最終戦まで続く可能性が高く、最終決定がアブダビGP後に下されるシナリオも見え隠れする。

いずれにせよパーメインが示唆するところによれば、角田には少なくとも追加であと2戦(ブラジルGPとラスベガスGP)の猶予が与えられる可能性がある。

角田としてはこの期間で好調を維持し、予選・決勝ともに上位で戦って着実にポイントを持ち帰り、若手ドライバーたちの挑戦を退けることが期待される。

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フリー走行前にパドック入りする角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年10月24日(金) F1メキシコGP(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

F1メキシコGP特集

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