アロンソ、F1中継方針に”皮肉交じりの一撃”「無線でポール」の裏にある批判と信念

2025年F1第18戦シンガポールGPの終了後、フェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)がSNSに投稿した一言が、ファンや関係者の間で大きな話題を呼んでいる。

レース終盤、アロンソはブレーキトラブルを抱えたルイス・ハミルトン(フェラーリ)を猛烈に追い詰め、チェッカーフラッグ時点でわずか0.3秒差まで接近する激闘を繰り広げた。だが、フォーミュラ・ワン・マネジメント(FOM)のテレビ中継は、この緊迫のバトルを映さなかった。

「無線でポール」─中継方針へユーモラスな一撃

事の発端は、レース中にアロンソがチームに放った辛辣な一言だった。スローストップの影響でオリバー・ベアマン(ハース)とアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)に抜かれた直後、頻繁に話しかけてくるピットウォールに対して、アロンソはこう言い放った。

「毎周話しかけてくるなら、無線を切るぞ」

F1公式アカウントがこの無線内容を投稿すると、アロンソはすぐに反応。軽妙な皮肉を込めたリプライを添えた。

「非公開(であるべき)無線でポールポジションを確保したことだし、あとはメイン中継を微調整して、コース上のあらゆる興奮をファンに届けるだけだ!💪💪 バモス!😂👍🤞🤞🤞」

With pole position secured for the private radio broadcast, time to fine-tune the main coverage and bring all the on-track excitement to the fans! 💪💪 Vamos! 😂👍🤞🤞🤞 pic.twitter.com/XROoZPDeEo

— Fernando Alonso (@alo_oficial) October 5, 2025

一見すると自虐的なジョークに見えるが、その裏にはFOMへの明確な批判が込められている。「無線でポールポジション」とは、自身の無線ばかりが注目されることへの皮肉。そして「すべての興奮を届ける」という一文は、肝心のバトルを中継しなかったF1放送への痛烈な当てつけだ。

映されなかった「驚異の追い上げ」

アロンソはレース終盤、目を疑うような勢いでハミルトンとの差を詰めていた。ブレーキトラブルを抱えたハミルトンが急激にペースを落とす中、アロンソはわずか2周で40秒以上を削り取り、最終ラップでは0.3秒差まで接近。あと1周あれば逆転もあり得た展開だった。

だが、FOMの中継カメラが映し続けたのは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とランド・ノリス(マクラーレン)による2位争い。その背後で起きていたアロンソ対ハミルトンの攻防、さらにはカルロス・サインツ(ウィリアムズ)による怒涛のオーバーテイクショーなど、他の興味深いバトルは完全にスルーされた。

結局アロンソは、ハミルトンがレース後にトラックリミット違反で5秒加算ペナルティを受けたため、7位入賞を果たした。だが、その順位以上にドラマチックな展開が、視聴者には届けられなかった。

Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

アストンマーチンAMR25をドライブするフェルナンド・アロンソ、2025年10月5日(日) F1シンガポールGP決勝(マリーナベイ市街地コース)

「無線はプライベートであるべき」一貫した主張

アロンソは以前から、無線の公開方針に疑問を呈してきた。2015年、当時のホンダ製パワーユニットを「GP2エンジン」と酷評した無線が世界中で話題になった際も、「チームラジオは非公開にすべきだ」と訴えていた。

こうした主張の背景には、F1の無線内容の「99%は一般の人には理解できない」というアロンソの信念がある。発言の一部だけが切り取られ、文脈を無視したまま意図しない形で拡散されることへ懸念だ。

アロンソの皮肉は、F1中継の在り方そのものへの問いかけだった。ドライバーの生々しい感情が表れるチーム無線は確かにエンターテインメント性が高い。だが、もしそれが実際のバトルより優先されるようなら本末転倒だろう。

一方で、チーム無線は、F1というスポーツの魅力を拡張するものでもある。中継の役割は単に“バトルを映す”ことではなく、“レースの全体像を伝える”ことにある。無線があることで、視聴者は「何が起きているのか」だけでなく、「なぜそうなっているのか」を知ることができる。つまり、無線の放送はレースの“見えない層”を可視化し、競技への理解を深めるものともなり得る。

2025年F1第18戦シンガポールGP決勝レースは、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がポール・トゥ・ウインを飾り、2位にマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3位にランド・ノリス(マクラーレン)が続く結果となった。

サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)を舞台とする次戦アメリカGPは10月17日のフリー走行1で幕を開ける。

F1シンガポールGP特集

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