大谷翔平とシュワーバーの"決定的"な差 MVPレースはもはや存在せず…歴史が証明する現実
ドジャース・大谷翔平投手は今季もナ・リーグMVPの最有力候補として大活躍を見せている。一方でシーズン終盤に入り、フィリーズのカイル・シュワーバー外野手が衝撃的な打棒を披露。米メディアやファンから「大谷vsシュワーバー」の構図のMVPレースが盛んに取り上げられ始めた。果たして、大谷の4度目のMVPを32歳大砲が阻止するのだろうか。歴史的な文脈から検証したい。
【注目】元日本代表がガチで勝敗予想! プロの読みでWINNERが当たるのかを検証転機となったのは、28日(日本時間29日)のブレーブス戦。シュワーバーはMLB史上21人目となる1試合4本塁打の快挙を達成した。これで本塁打数で大谷を抜き去り、29日(同30日)時点で49本塁打はナ・リーグ1位、119打点はメジャートップ。堂々の2冠に輝いた。数字だけを見れば、確かにMVP候補に名を連ねるにふさわしい。
では、実際にシュワーバーがMVPを獲得できるかと言えば、現実には限りなく厳しい。最大の要因は「守備位置」にある。シュワーバーは昨季からDH(指名打者)を主戦場としており、今季も135試合出場のうち外野守備に就いたのはわずか8試合だけ。DHは守備での“貢献度”がないため、MVP投票では不利とされるのが通例だ。
実際、MVP投票の歴史を振り返ると、1973年にア・リーグで指名打者制度が導入されて以降、DHでMVPを手にしたのは大谷ただ一人(2024年)しかいない。
「年間最優秀指名打者賞」の名前にもなっているエドガー・マルティネスは、短縮シーズンの1995年に打率.356、OPS1.156などで6部門リーグ1位に輝いたが、投票では3位に終わった。フランク・トーマスもDHメインとなった2000年に打率.328、43本塁打、134打点、OPS1.061と好成績を残し、ホワイトソックスを地区優勝へ導いたが、MVPは僅差の2位。さらに2006年に54本塁打&137打点の二冠を達成したデビッド・オルティスも、結果は3位だった。
打撃で突出した成績を残しても、DHという立場ゆえに票を集めきれない。だが大谷は昨年、54本塁打&59盗塁という前人未到の「50-50」を成し遂げ、歴史を塗り替えたことで“壁”を打ち破った。
シュワーバーはOPSで大谷を上回れず…fWAR2位はターナー
DHの評価が低い背景には、勝利貢献度WAR(Wins Above Replacement)の普及がある。攻撃・守備・走塁・投球を得点(失点)の概念に落とし込み、同一の指標で比較できるようになったのは2010年代以降。そしてDHは守備でのプラス要素がなく、トータルでWARを積みにくい。そのため選手としての価値が低く見られるようになった。しかし、その“DH限界説”を払拭したのも昨年の大谷だった。
ベースボール・リファレンス版のWARは9.2。1995年のエドガー・マルティネス(7.1)を大きく超えて歴代最高を記録し、ナ・リーグ1位に輝いた。DHの選手がリーグWARトップに立つのは史上初の快挙。打撃に加えて59盗塁を積み重ね、守備に就かない“欠損”を走塁で補って余りある数字だった。
では今季のシュワーバーは、昨季の大谷のように歴史的存在と言えるか。答えは否だ。OPSは.954でリーグ2位、大谷の.995には及ばない。OPS+も155と優秀だが、大谷は173。打撃タイトルで2冠を誇るものの、総合的評価では「大谷>シュワーバー」の構図は崩れない。
走塁でも差が大きい。シュワーバーは今季自己最多タイの10盗塁を記録したが、走塁貢献度BsRは-1.1でリーグ平均を大きく下回る。評価の大半が打撃頼みであるにもかかわらず、その打撃でも大谷を凌駕しているとは言えないのだ。
そして忘れてはいけないのが、今季の大谷は二刀流として復活していることだ。投手としては11試合に先発して1勝1敗、防御率4.18、32回1/3を投げて44奪三振をマーク。米データサイト「ファングラフス」版のWARでは、打者としてリーグ1位の5.9、投手としても1.2を積み上げ、合計7.1で他を寄せ付けない。リーグ2位はフィリーズのトレイ・ターナー内野手で5.7、シュワーバーは4.5で8位にとどまっている。
結論として、シュワーバーがMVPを勝ち取るには険しい道が待つ。打撃で大谷を完全に上回ることに加え、本塁打記録を塗り替えるような歴史的快挙を達成しなければならない。そうして初めて、MVP争いに“真の対抗馬”として立つことができるだろう。
(新井裕貴 / Yuki Arai)