勢力図変わる半導体株、東エレク17%安が映す「AI」「最先端」の壁

人工知能(AI)への世界的な投資ブームが半導体関連株の勢力図を急速に塗り替え、製造装置のリーディングカンパニーも年初来の株価パフォーマンスで劣勢に立たされている。

  東京エレクトロンは「成膜」や感光剤の塗布・現像を行う「リソグラフィー」、薄膜形状加工の「エッチング」、不純物除去の「洗浄」など半導体前工程の製造装置で高シェアを握るグローバル企業。韓国サムスン電子、米インテル、台湾積体電路製造(TSMC)など大手半導体メーカーに製品供給するが、株価は年初来17%安(4日時点)とNYSEファクトセット・アジア半導体指数の中で下落率2位とさえない。

  対照的に後工程の半導体試験装置で高シェアを握り、AI向け試験装置が好調アドバンテストは22%上昇。東エレク株低迷の背景には、相対的にAI成長の恩恵を受けにくい企業への依存度の高さがある。これまで業績を押し上げる原動力だった中国市場も、経済成長率の低下や米国の制裁で先行き不透明感が強い。

  りそなホールディングスの武居大暉ストラテジストは、東エレクは半導体製造装置の大手として有名だが、顧客には足元の経営に苦しむインテルやサムスンも含まれ、最先端のAI向け半導体に直接的に関わっている企業に比べると、同社の業績は恐らく出遅れるだろうと話す。

  サムスン電子の半導体部門の営業利益は4-6月期に94%減った。インテルも米政府の出資計画が明らかになったが、当面は技術力の回復よりもコスト削減を優先するとの懸念が強い。ブルームバーグのサプライチェーン分析によると、東エレクは売上高の10%超をサムスン、8%をインテルから得ており、中国市場向けの占有率は4-6月期末時点で約40%となっている。

  東エレクは7月末、今期(2026年3月期)営業利益計画を従来比20%以上減額した。一部の先端ロジックの投資回復や中国を含む成熟分野での投資の動きが想定を下回るためだ。中国の半導体メーカーは、米国による輸出規制強化への懸念で製造設備を先回りで購入してきたが、その動きは落ち着きつつある。

  地政学やレピュテーション(評判)リスクも同社の業績と株価の先行きに暗い影を落とす。米国は最近、サムスン電子とSKハイニックスの中国工場向け製造装置の輸出規制緩和を撤回。中国政府は独自技術の確立を目指しており、海外依存度を今後減らす可能性が浮上している。東エレクの元社員を含む3人がTSMCの機密情報を持ち出した疑いで、台湾の検察当局から起訴されるニュースもあった。

  もっとも、東エレクにとってAI半導体の米エヌビディアに製品を供給するファウンドリーメーカーのTSMCも重要な顧客の1社だ。中国についても、今後政府の景気刺激策によって経済が回復に向かう可能性に楽観的な見方もある。

  英ブルーボックス・アセット・マネジメントでポートフォリオマネジャーを務めるウィリアム・デ・ゲイル氏は、東エレクはAI単体の銘柄ではなく、「業界全体のトレンドに乗る銘柄だ」と分析する。

  一方、ニッセイアセットマネジメントの山本真以人チーフ・アナリストは半導体業界のインフラを支えている点が日本企業の強みだとしつつ、当面はAI関連が注目され、アドテストや半導体パッケージのイビデンが中核銘柄だと話した。

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