様相異なる地銀の再編機運-金利復活がトリガーに、投資ファンドも鍵
地方銀行の再編機運が一気に高まってきた。経営統合計画の公表や他の地銀に出資する動きが相次いでいる。合従連衡への期待は過去にも膨らんではしぼみ、広がりを見せなかった。しかし、今回は様相が異なる。
背景には金利ある世界の復活に加え、地銀株の保有に積極的な投資ファンドの存在など、新たな環境変化がある。
新潟県地盤の第四北越フィナンシャルグループと群馬銀行、千葉銀行と千葉興業銀行が4月と9月に、それぞれ2027年4月をめどとする持ち株会社方式の統合計画を発表した。今月には宮崎銀行が宮崎太陽銀行株式5.65%の取得を公表。以前からの持ち分を含め9.06%に上昇した。
「地銀のトップで再編を考えていない人はいないと思う」とSBI証券の鮫島豊喜シニアアナリストは、経営陣の姿勢の変化を指摘する。
人口減少や地方経済の停滞を背景に地銀再編というテーマは何年も語られてきた。しかし、全国的な統合・合併の波はこれまで起きていない。複数の銀行を傘下に持つ持ち株会社を含む上場地銀・グループは現在73ある。
激化する預金集め
鮫島氏は全国のほぼすべての地域で大手地銀も含めた再編が起こり得るとみている。その大きな要因として挙げるのが、昨年3月の日本銀行によるマイナス金利の解除とそれに続く利上げだ。金利上昇は地銀に大きく二つの影響をもたらしている。
一つは預金獲得競争の激化だ。利上げ効果による金利収益の拡大で足元では地銀の業績は好調だ。ただ、貸し出しの原資となる預金について、鮫島氏は地銀による獲得は難しくなってきていると分析。これが統合を検討する要因の一つになるとみている。
ネット専業銀行などが地方でも利用者を増やす中、無理して高い金利で預金を集めても、貸出金利に転嫁できないリスクが高まっていると地銀関係者は懸念する。顧客から集める預金の大きさが銀行の競争力を左右することはマイナス金利下では考えられなかった。
もう一つの影響は急激な利回り上昇(価格は下落)で膨らむ保有国債などの含み損だ。日本資産運用基盤によると、地銀全体の国内債の含み損は9月末で約3兆3000億円と、24年3月末の約1兆2600億円の2.6倍となっている。国債金利はその後さらに高い水準で推移しており、含み損が拡大している可能性がある。
含み損がそのまますぐに銀行の経営に影響を及ぼす訳ではない。しかし、経営体力のある地銀が売却損を出しながらでも、利回りの高い債券への入れ替えを進める一方で、それができない地銀は収益の低い債券を抱え続けることなる。長期金利の指標である新発10年国債利回りは20日、一時1.835%と2008年以来の高水準となった。
さらに再編を後押ししそうなのが、ありあけキャピタルなど投資ファンドの存在だ。同ファンドは約2割を保有していた千葉興銀の株式を千葉銀に売却。これが両行の経営統合につながった。
総資産20兆円が目安に
ありあけは10社超に出資しており、大量保有報告書などによれば、大阪府を地盤とする池田泉州ホールディングス(HD)と滋賀銀行も含まれる。SBI証券の鮫島氏は2行への投資が「再編の引き金になるかもしれない」とみている。
10月にはありあけが、あいちフィナンシャルグループの株を5.06%保有したことも判明。11月10日には持ち分を7.29%まで高めたことが分かった。また10月下旬の報告によれば、池田泉州HD株の保有比率も7.52%から8.61%に引き上げるなど、買い増しに動いている。
ある金融庁幹部は、ありあけの動きを注視しているとして、地銀の経営陣は建設的な対話に応じるべきだと述べた。
ありあけを率いる田中克典氏は、地銀にとって「生き残りの臨界点」の規模として総資産20兆円を挙げる。現時点でクリアしているのは、ふくおかフィナンシャルグループ(約33兆円)や横浜フィナンシャルグループ(約25兆円)など数行にとどまる。
田中氏はブルームバーグの取材に対し「再編ありきだとは思っていないが企業価値向上を考えた場合、一つの有力な選択肢だ」と述べた。またインフレは銀行のコスト上昇要因にもなるため、規模が小さく経費率の高い銀行の統合はスケールメリットがあるともみている。
田中氏は個別の案件についてのコメントは控えたが、今後も既に株式を保有している地銀への出資比率引き上げや新規先への投資を検討していくと述べた。
新たな提携の形
金融庁の伊藤豊長官も8月のインタビューで、金利上昇により地銀の優勝劣敗が鮮明になるとの考えを示している。地域金融機関が機能を発揮し続けるための選択肢には「再編や他業態との提携も含まれる」とも指摘した。こうした中で今後のトレンドとなり得る新たな動きもでてきている。
富山銀行は今月、ホテルやレストラン事業を手掛けるプラン・ドゥ・シー(東京都港区)と資本業務提携を発表。富山県を中心とした北陸地域でホテルや飲食店、結婚式場など事業の多面展開を通じて地域活性化を図るほか、両社の人材交流も検討するという。
プラン・ドゥ・シーの浅葉翔平社長は富山銀への出資比率を5%弱から今後引き上げる可能性について「視野に入れている」と語り、他の地銀にも同様な事例を広げていく可能性があるとした。
AI投資
規模の小さい地銀にとって逆風となる環境変化は他にもある。金融庁は「地域金融力強化プラン」の年内策定に向け、マネーロンダリング(資金洗浄)やサイバーセキュリティー対策の強化などを議論している。競争力の確保に加え、金融インフラの側面からも、銀行の規模に関係なく、AI(人工知能)やITへの新たな投資が必要となる。
金融庁は表立って再編を促してはいないが、小規模な第2地銀などの持続可能性には以前から懸念を示している。同庁幹部は追い込まれてから救済のような形でする統合は最悪の形だとして、経営体力のあるうちに前向きな再編を考えるべきだとしている。同庁の担当者はコメントを差し控えるとした。
ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローも、地銀再編は加速するみている。生き残りのための「預金獲得競争は今後一層加速する」と分析。その上で「差別化のためのAI・IT対応が必須。それらの投資のためには規模と体力が必要だ」と述べた。