日銀「主な意見」が示す10月利上げの明確なメッセージ(愛宕伸康)

 日本銀行ウオッチャーが金融政策の先行きを占う上で最も重視する「金融政策決定会合における主な意見」(通称「主な意見」)の9月18~19日開催分が昨日公表されました。今回は、「主な意見」のポイントを整理します。

 先週のレポートで述べたとおり、筆者は9月の金融政策決定会合(MPM)の結果などを受け、日銀の次回利上げは10月とみていますが、今回の「主な意見」はそうした見方を強力にサポートする内容となっています。

2025年9月24日:日銀、米指標・市場に波乱なければ10月利上げへ、周到な準備進む

「主な意見」を読む際のポイントは、8月13日に配信したレポートで詳しく紹介しましたが、まずは日銀の公式見解が変わっていないか、それぞれの項目の最初に掲載されている意見から確認する必要があります。

2025年8月13日:日銀「主な意見」、10月、12月、来年1月のいつでも利上げできる姿勢示す

 図表1に、今回の「主な意見」の三つの項目(「経済情勢」「物価」「金融政策運営に関する意見」)で、それぞれ一番目に掲載された意見を抜粋しました。これが日銀の今の公式見解になります。

<図表1 9月「主な意見」の各項目で最初に掲載された意見>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 これら三つの意見は、いずれも前回7月MPMの「主な意見」から一言一句変わっていません。このことから、日銀の経済物価に対する基本的な見方や利上げスタンスに、(少なくとも9月のMPMまでは)変化がないことが確認できます。

 その上で、今後の金融政策運営に関する日銀のメッセージを、各項目の二つ目以降の意見から読み取ることが重要です。今回特に目についたのは、物価の上振れリスクを指摘する意見が多かった点、利上げに対する前傾姿勢がやたらと目立った点です。

 以下、「経済情勢」「物価」「金融政策運営に関する意見」の順に見ていきましょう。

10月短観や支店長会議の情報が判断材料になることを示唆

 最初に、「経済情勢」に関する意見ですが、今回目立ったのは図表2に示した意見です。

<図表2 9月「主な意見」の経済情勢に関する意見で目立ったもの>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 一つ目の意見は、個人消費に対する前向きな見方を示したものですが、どのような指標に基づいた見解か明らかではありません。家計調査を見ると(図表3)、確かに名目および実質消費支出は緩やかな回復トレンドをたどっていますが、10月7日に日銀が発表する8月の消費活動指数を確認する必要があるでしょう。

<図表3 家計調査>

出所:総務省、楽天証券経済研究所作成

 図表2の二つ目の意見は、10月1日に発表される全国企業短期経済観測調査(短観)の結果や、10月6日に開催される支店長会議でのヒアリング情報が、政策判断を行う上で重要であることを示唆しています。これまでの傾向から、それらが利上げの判断材料にされる可能性が高いと推察されます。

日銀が物価上振れリスクを相当意識していることが判明

 物価に関する意見では、前回7月「主な意見」の7個を上回る8個の意見が掲載されました。意見の多さは物価動向に対する関心の強さを示しており、図表4を見ると、2024年3月に異次元緩和を終了したころと同じ程度にまで個数が増えていることが分かります。

<図表4 「主な意見」の物価に関する意見の個数>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 特に、ここ2回のMPMでは、物価上振れリスクを指摘する意見が増えており、今回も全8個の意見のうち図表5に示した6個が、物価上振れリスクを意識したものとなっています。

<図表5 9月「主な意見」で物価上振れリスクを意識した意見>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

重要なメッセージは10月利上げの可能性

 今回の「主な意見」で最も印象的だったのは、「金融政策運営に関する意見」に掲載された意見が予想以上に利上げに前のめりである点です。これまで日銀ウオッチャーとして毎回「主な意見」をチェックしてきましたが、ここまで前のめりな「主な意見」は初めてです。

 今回、「金融政策運営に関する意見」に掲載された意見は全部で16個。このうち上場投資信託(ETF)の処分方針に関するものが6個、政策金利に関するものが10個でしたが、その10個のうちなんと7個が、利上げが近いことを示唆しています(図表6)。以下、簡単に解説しましょう。

<図表6 9月「主な意見」に掲載された利上げに前のめりな意見>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 まず、1の「そろそろ再度の利上げを考えてもいい時期かもしれない」との意見は、野口旭審議委員のものと推察されます。9月29日に行われた講演で、野口委員は「私自身は、純粋に国内の経済状況という観点だけからみれば、そうした意味での新たな政策視野が必要な段階が近づきつつあると認識しています」と述べています。

 2の「市場にサプライズとなる現時点での利上げは避けるべき」との意見は、9月MPMで利上げ提案した高田創審議委員と田村直樹審議委員に対してのものと思われますが、逆に市場が利上げをかなり意識している10月ならやれると読めなくもありません。

 3の「ハードデータをもう少し確認してから判断しても遅くない」は、「もう少し」がどのくらい少しかがポイントになるとはいえ、利上げが視野に入っていることは明らかであり、4の「待つことのコストも徐々に大きくなっていく」は、米国経済の不確実性が完全に晴れるのを待つ余裕がないことを示唆しています。

 5の意見は、今年度上期の企業収益や10月短観の結果に問題がなければ利上げ再開に踏み切れることを言明しているほか、6と7の意見はすでに利上げ再開のタイミングに差し掛かっているという明確なメッセージと受け取ることが可能です(7の意見は、9月に利上げを提案した田村審議委員のものと推察されます)。

 以上のとおり、今回の「主な意見」は、明らかに利上げが近いというメッセージを発しており、今後予定されている政策委員の講演をチェックする必要はありますが(図表7)、10月利上げの確度がかなり高まっているとみて間違いなさそうです。

<図表7 今後予定されている政策委員の講演など>

出所:日本銀行ほか、楽天証券経済研究所作成

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