「眠れる巨人」グーグルが覚醒、AI覇権争いに潮目の変化-強み生かす

世界を席巻した3年前の「チャットGPT」デビュー以降、アルファベット傘下グーグルは熾烈な人工知能(AI)開発競争で出遅れたとの厳しい指摘が上がっていた。元最高経営責任者(CEO)やエンジニアといった社内の関係者すらも認めていたほどだ。

  だが、ここにきて状況は一変した。

  足元でグーグルは勢いに乗る。最新AIモデル「Gemini(ジェミニ)3」は高評価のレビューが相次ぎ、AI新興企業アンソロピックとは独自のAIチップ「テンソル・プロセッシング・ユニット(TPU)」の供給で合意。GPTの開発元オープンAIを筆頭とするライバル勢に対して競争力が高まっているとの評価が広がりつつある。

  最新汎用モデル「Gemini 3」は、推論能力やコーディング能力に加え、これまで多くのAIチャットボットが苦手としてきた特定タスクでも高い性能を示しており、発表直後から絶賛する声が上がった。かつて負け組とされたグーグルのクラウド事業も、世界的なAIサービス開発や計算能力の需要拡大を背景に着実な成長を遂げている。

  さらにグーグルのAI専用チップに対しても需要拡大の兆しが出ている。テクノロジーニュースサイト、ジ・インフォメーションは、メタ・プラットフォームズがTPUを数十億ドル規模で導入する方向で協議していると報道。来年にグーグルのクラウド部門からチップをレンタルする可能性もあるという。こうした中、市場ではエヌビディア製チップに肩を並べる存在になりつつあるとの見方が出ている。

  著名投資家ウォーレン・バフェット氏の投資会社バークシャー・ハサウェイが49億ドル(約7600億円)相当の株式を取得したことも追い風となり、アルファベット株価は騰勢を強めている。10月中旬以降の上昇で時価総額はおよそ1兆ドル増加。25日の取引では一時3.2%上昇し、初の時価総額4兆ドル到達に近づいた。

  一方、オープンAIの主要な後ろ盾であるソフトバンクグループの株価は、グーグルのGeminiとの競争激化懸念から25日に2カ月ぶり安値を付けた。AI開発レースで首位を走るエヌビディア株も一時5.51%下落し、時価総額で2430億ドルが吹き飛んだ。

  カウンターポイント・リサーチのアナリストで共同創業者のニール・シャー氏は「グーグルはこれまでAI競争におけるダークホースだったが、眠れる巨人は今や完全に目を覚ました」と述べた。

  グーグルの経営陣はかねて、莫大な研究開発投資こそが競合を退け、首位を握る検索エンジンを守るとともに、将来のコンピューティング基盤を創出する鍵になると主張してきた。だがチャットGPTの登場で、グーグル検索への脅威は現実味を帯びた。もっとも、グーグルはオープンAIにはないリソースが豊富にある。具体的にはAIモデルの学習と改良に活用できる膨大なデータ、潤沢な利益、自社の計算インフラだ。

グーグルが4月に発表したAI向けTPU「アイアンウッド」

  規制を巡る懸念も薄れつつある。グーグルによる違法な独占があったとの判断が下された反トラスト法(独占禁止法)訴訟では、AI新興勢力の台頭が脅威と見なされたこともあり、是正策として挙がっていた事業分割という最悪のシナリオは回避した。

  さらにグーグルは中核事業である検索エンジンからの多角化でも一定の進展を見せている。自動運転部門ウェイモは新たな都市でサービスを拡大。高速道路走行にも対応するなど、巨額の研究開発投資が成果を上げ始めている。

  グーグルの強みの一つはその経済構造にある。業界で「フルスタック」と呼ばれるコンピューティング基盤を自社で一貫して構築できる数少ない企業の1つだ。画像生成アプリ「Nano Banana」などのAIアプリから、基盤ソフトウエア、クラウド基盤、さらにはその下支えとなるチップまで自社で開発する。

  検索インデックスやAndroid端末、YouTubeといった膨大なデータも、AIモデル構築に活用できる「金鉱」であり、多くを社内で保持する。このためグーグルはAI製品の技術的方向性を自社で制御でき、オープンAIのように外部に依存する必要がない。

  メタがグーグルのAI半導体を導入するとの報道について、アナリストはグーグルの成功を示す兆候だと受け止めている。クイルター・チェビオットのテクノロジー調査責任者、ベン・バリンジャー氏は「多くの企業がカスタムチップの開発に失敗する中で、グーグルは明らかに強みを増やした」と述べた。

  消費者の関心は測りにくい。グーグルによると、Geminiアプリの利用者は6億5000万人。オープンAIは最近、チャットGPTの週間利用者が8億人に達したと明らかにした。調査会社センサー・タワーによれば、10月時点でGeminiアプリの月間ダウンロード数は7300万件と、チャットGPTの9300万件を下回っている。

  グーグルの収益多角化は依然として道半ばだ。クラウド事業の第3四半期売上高は152億ドルと前年同期比34%増となったが、なお業界第3位で、マイクロソフトとアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の背中を追う。カウンターポイントのシャー氏は、グーグルは企業向けのAI導入でマイクロソフトやアンソロピックに後れを取っていると指摘する。

  それでも、フォレスターのアナリスト、トーマス・ハッソン氏は「Gemini 3の登場で、グーグルが再び競争の舞台に戻ってきたのは明らかだ」と話す。その上で、米小説家マーク・トウェインの言葉になぞらえ、「グーグル終焉の報道は大いなる誇張だ」と述べた。

関連記事:

AIチップ開発競争、グーグルが猛追-「エヌビディア1強」に風穴も

グーグルのAI半導体に突如脚光、エヌビディアに迫れるか-QuickTake

原題:Google, the Sleeping Giant in Global AI Race, Now ‘Fully Awake’(抜粋)

— 取材協力 Henry Ren and Rose Henderson

関連記事: