トランプ氏が欲しがるウクライナのレアアース、採算性には疑問符
トランプ米大統領が軍事支援の見返りとしてウクライナの資源の支配権を握ろうとしているため、同国の鉱物資源に注目が集まっている。しかし、実際にどんな資源があるのかについてはほとんど知られていない。
さまざまな報道によると、ウクライナには10兆ドル(約1520兆円)以上の価値がある鉱物資源があるとされ、同国政府は軍事・経済支援を求める際に交渉材料として重要資源の存在を前面に打ち出している。
レアアース(希土類)は、防衛やその他のハイテク産業において重要な役割を果たしており、トランプ大統領が重要な鉱物の供給確保を模索する中で、特に注目される。大統領は先週、5000億ドル相当のレアアースを確保したいと述べた。
しかし、ウクライナには経済的に採算が合うと国際的に認められた主要なレアアース鉱床はない。ウクライナは幾つかのレアアースについて埋蔵量を報告しているが、その潜在的可能性についてはほとんど知られていない。そのほとんどはリン酸塩のような素材の生産の副産物であるようだが、一部はロシアの支配地域にある。
「レアアースはニッチな分野であるため、通常は詳細な研究結果を公にすることはなく、十分な情報がない」と、CRUグループの主任コンサルタント、ウィリス・トマス氏は述べた。
主に高強度磁石に使用されるレアアースの市場は、銅や石油などの商品と比較すると極めて小さい。ウクライナで発見された他の主要な特殊鉱物を加えても、その規模はやはり小さい。
米地質調査所のデータに基づくブルームバーグの計算によると、米国は昨年、レアアース、チタン、ジルコニウム、グラファイト、リチウム、合わせて約15億ドル分を輸入した。
Known deposits of key raw materials
Source: Ukraine Geological Survey (UGS); Institute for the Study of War and AEI’s Critical Threats Project
ウクライナのレアアース鉱床に関する情報は主に政府データに基づいているが、同国の地質調査の元責任者でさえ、自国の資源に関する近代的な評価は行われていないと述べている。S&Pグローバルが先週報じた。
ウクライナに採算の合うレアアース鉱床があるとしても、欧米には克服しなければならない大きな課題がある。採掘は比較的容易だが、原料の加工ははるかに難しい。
中国は供給の約60%を担っているが、分離と精製能力では約90%を占めている。また、半導体へのアクセスを巡る米国との緊張が高まる中で、中国はレアアース関連の規制を強化している。
ウクライナとの取引は、中国の措置による「問題を解決するものではない」とトマス氏は言う。米国にはまず、「中国国外で分離と磁石製造を行うバリューチェーンが必要だが、現時点ではそれが存在しない」と説明した。
欧米の採掘業者は、環境問題、処理上の課題、極端な価格変動、そして中国の生産者との競争の難しさなどに阻まれ、レアアース事業をほとんど立ち上げることができずにいる。
例えば、中国国外では数少ない生産者の1社であるオーストラリアのライナス・レア・アースはマレーシアの処理プラントで、放射性廃棄物への懸念や地域社会の反対運動に悩まされてきた。
米国では、業界を独占していたモリコープが経営破綻。後継企業であるMPマテリアルズは原材料を加工のために中国に送っていたとして批判されたことがある。米政府はライナスとMP両社に資金援助を行い、米国での処理開発を支援してきた。
トランプ氏は米国の資源確保と、特定の原材料における中国の支配に対処することを、これまでの外交政策の要としてきた。パナマ運河やグリーンランドへの関心はその表れだ。現在はウクライナの資源を確保することを、同国への継続的な支援に関連付けている。
ウクライナはリチウム、グラファイト、チタンの埋蔵量があることを積極的に売り込もうとしている。リチウムについては欧州最大の埋蔵量があるとしており、チタンについてはイルメナイトとルチルと呼ばれる2種類のチタン含有鉱物の生産量で世界トップ10に入っている。
「チタン、イルメナイト、ルチルは、ウクライナにある主な原材料だが、これらは世界中に存在しており、採掘のしやすさ、加工のしやすさ、輸送のしやすさが重要になる」とトマス氏は述べた。
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原題:Trump Wants Ukraine’s Minerals, But What Does It Actually Have?(抜粋)