【米国市況】株急落、トランプ関税で成長懸念-円高進み一時145円台

3日の米株式相場は急落。トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争への反発が強まり、米景気動向に敏感な銘柄を中心に売りが膨らんだ。ドルも大きく売られ、「米国第一主義」トレードが総崩れとなった。一方、債券や円への資金逃避が加速し、円は対ドルで一時1ドル=145円台に上昇した。

株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 5396.52 -274.45 -4.84% ダウ工業株30種平均 40545.93 -1679.39 -3.98% ナスダック総合指数 16550.61 -1050.44 -5.97%

  S&P500種株価指数は2020年6月以来の大幅安。構成銘柄は時価総額およそ2兆ドル(約290兆円)を消失した。トランプ大統領が前日に打ち出した大規模な関税措置がリセッション(景気後退)を引き起こすとの懸念が強まった。

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  海外の製造業者にサプライチェーンを大きく依存している企業の株が特に売られ、アップルは9.3%安。同社は米国で販売する製品の大半を中国で製造している。中国には新たに34%の関税が賦課される。先に導入された分も含めると中国製品への関税率は合計で54%に達することになり、同国を中心に組まれたアップルのサプライチェーンに大きく影響するとみられる。

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  トランプ関税は、世界のテクノロジー企業がいかにアジアのサプライヤーに依存しているかを浮き彫りにした。業界内でも特に広範なサプライチェーンを持つデル・テクノロジーズの株価は19%安。同社は、関税への対応として価格を調整する必要があるかもしれないとしている。

  ただ、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のテクノロジーアナリスト、アヌラグ・ラナ氏は「関税の影響を相殺するために各社が値上げするとは考えにくい」とし、結局は利益が圧迫される公算が大きいとの見方を示した。

  このほか、ベトナムで生産するルルレモン・アスレティカやナイキは、いずれも約10%の下げ。景気の影響を受けやすいエヌビディアマイクロン・テクノロジーも下げ、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなどの自動車メーカー株も下落。  

  ナティクシス・インベストメント・マネジャーズ・ソリューションズのポートフォリオストラテジスト、ギャレット・メルソン氏は「誰も逃れることはできない」と指摘。「少なくともきょうは、広範なリスク回避の動きに巻き込まれる」と述べた。

  大手銀行株で構成されるKBW銀行指数は9.9%安。1日の下げとしては2023年3月の地方銀行危機時以来で最悪となった。シティグループとバンク・オブ・アメリカ(BofA)はそれぞれ10%以上の下落。JPモルガン・チェースは一時7.5%安となり、時価総額にして500億ドル超が吹き飛んだ。

  シーポート・リサーチ・パートナーズのアナリスト、ジム・ミッチェル氏は「金融業界は関税への直接的なエクスポージャーはないものの、広範な関税引き上げが経済全体や活動の水準に与える間接的な影響を巡る不確実性とそれに伴う市場のボラティリティーは当面、銀行株の動きを左右しそうだ」と分析した。

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  小型株も激しく売り込まれ、ラッセル2000指数は6.6%下落。2021年末に付けた過去最高値からの下落率は20%を超え、一般的に弱気相場入りの目安とされる水準に達した。同指数は昨年11月のトランプ氏の大統領選勝利後、最高値に一時迫ったが、それ以降は失速が鮮明になっている。

  小型株はトランプ氏が掲げる米製造業の復活から恩恵を受けるとみられていたが、むしろ見通しの立たない貿易政策によって、金属や原材料、労働力などあらゆるコストに関して不透明感が強まり、経営者の不安を高めている。

  ジョーンズトレーディングのチーフマーケットストラテジスト、マイケル・オルーク氏は「関税と国際貿易の先行きに関する不確実性の増大が小型株の大きな重しとなっている」と指摘。「関税の目的である製造業の国内回帰は小型株の追い風になると期待されているものの、当面は大きな摩擦と不透明感が続くだろう」と述べた。

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  トランプ氏が2日夕方に発表した関税措置の範囲と厳しさは、同氏が1期目に課した関税を大きくしのぐ。世界的なサプライチェーンを破壊し、景気減速を深刻化させ、インフレを押し上げるリスクがある。投資家は、今回の関税賦課が企業利益に及ぼす影響を見極めようと苦慮している。

  JPモルガン・チェースのエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は、今回の関税措置により今年の物価上昇率が最大1.5ポイント押し上げられる可能性があると試算し、個人所得と支出への重しになると指摘。

  「この影響だけで経済はリセッションに危険なほど近づく恐れがある」とし、「輸出と投資への追加的な打撃を考慮する前でも、こうした状況だ」とリポートに記した。

  BCAリサーチの米株式チーフストラテジスト、アイリーン・タンケル氏は、「短期的に関税が経済成長に悪影響を及ぼすことに疑いの余地はない」と指摘。「われわれはこの危機の第一段階を乗り越えてきた。これは金融市場にとって悪材料だ。第一段階は『不確実性のピーク』、次の段階は『企業収益の下方修正』になる」と述べた。

米国債

  米国債は上昇。10年債利回りは一時13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下し、昨年10月以降で初めて4%を下回る場面があった。貿易戦争が米経済に悪影響を及ぼすとの懸念から、同利回りはトランプ氏が昨年の大統領選で勝利する前の水準に落ち込んだ。

国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.47% -2.7 -0.61% 米10年債利回り 4.03% -9.6 -2.34% 米2年債利回り 3.69% -16.9 -4.37%     米東部時間 16時41分

  短期金融市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が強まり、今年4回の0.25ポイント利下げが実施される確率は50%と織り込まれた。2日時点では想定されていなかったシナリオだ。

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  サンクチュアリ・ウェルスの最高投資ストラテジスト、メアリー・アン・バーテルズ氏は「これは関税に関する最悪のシナリオで、市場には織り込まれていなかった。こうしたリスク回避の反応が見られるのはそれが理由だ」と指摘。「これらの関税が維持されれば、経済は減速する。リセッションになるかどうかにかかわらず、米国および世界全体で経済が減速に向かうのは明白だ。債券市場以外に逃げ場はない」と述べた。

  XTBの調査ディレクター、キャスリーン・ブルックス氏は「債券市場は大きな勝者だ」と述べた。「各国中銀は、米国の新たな世界貿易政策による痛みを幾らか和らげるために、緩和策を強化する可能性が高い」と指摘した。

  ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は「関税・税制政策のタイミングを考えると、リセッションの可能性が高まっている。一方で金融政策と財政政策はともに景気抑制的であり、株価も下げている」と続けた。 

外為

  外国為替市場では円が対ドルで上昇し、6カ月ぶり高値となった。相互関税発表を受けたリスク回避の動きが続いた。米経済成長減速のリスクが高まったとの見方からも、ドルは売られた。

  円は対ドルで一時、前日比2.7%高の145円20銭と、昨年10月以来の高値。ブルームバーグ・ドル・スポット指数は一時2.1%下げ、2005年の同指数導入以来、取引時間中の下落率として最大を記録した。

為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1251.99 -19.16 -1.51% ドル/円 ¥146.14 -¥3.14 -2.10% ユーロ/ドル $1.1038 $0.0185 1.70%     米東部時間 16時41分

  ロード・アベットのポートフォリオマネジャーで為替チーム責任者のリア・トラウブ氏は、こうした関税が「長期にわたって維持されれば、米国の信頼性が損なわれ、米国の消費者と企業への悪影響は大きくなる」と指摘。「投資家の米国離れが進み、ドルは下落するだろう」と述べた。

  ドイツ銀行はこうした関税について、今年の米経済成長を最大1.5ポイント押し下げるほか、同程度の率で消費者インフレを押し上げる可能性があると指摘した。ストラテジストのジョージ・サラベロス氏は「このような急激な動きを踏まえれば、ドルはより広範な信認危機に陥るリスクにさらされているとわれわれは懸念している」と記述。「米経済見通しへの信頼感が広く損なわれつつある」ことを理由に挙げた。

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  現時点では、インフレ再燃よりも米景気減速の方が大きな脅威だとみられている。これを背景に、米金融当局が成長押し上げに向け予想以上の利下げを実施するとの見方が強まっており、ドルに下押し圧力がかかっている。市場では年内4回の利下げ確率が50%と織り込まれている。

  ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのストラテジスト、エリアス・ハダッド氏は「米金融当局にとって、著しい景気減速あるいは高い失業率を招くことなく、ディスインフレを実現する道は狭まりつつある」と指摘。「これはドルにとって悪いニュースだ」と話した。

原油

  ニューヨーク原油相場は急反落し、バレル当たり67ドルを割り込んで引けた。トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争で、世界経済の成長と素材需要が脅かされている。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成される「OPECプラス」は予想外の大幅増産で合意し、原油売りを加速させた。

  ストーンXのリスク管理コンサルタント、マット・キャンベル氏は「世界規模のリセッションの可能性を投資家は心配している。そうなれば、コモディティー(商品)の需要は長期にわたって脅かされる」と述べた。

  原油や天然ガスといったエネルギー商品は関税から除外され、直接的な打撃は免れたが、トランプ氏の政策変更や関税、イランやベネズエラへの制裁に原油市場は振り回されている。関税が消費を脅かすため、原油よりも石油製品の下げの方が大きくなっている。

  OPECプラスの増産合意は、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物をさらに下押しした。OPECプラスは日量41万1000バレルを市場に追加供給することが、ウェブサイトに掲載された声明で明らかになった。従来の生産計画で合意した増産幅の3倍に相当する。

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  ストラテガス・セキュリティーズのアナリスト、ジョン・バーン氏は「相互関税が残した傷にOPECが塩をすり込んだ」と語る。「関税のニュースは最終的に成長にはマイナス材料であり、そこにきょうは供給超過の発表が加わり状況は悪化した」と述べた。

  ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物5月限は、前日比4.76ドル(6.6%)安い1バレル=66.95ドルで引けた。ロンドンICEの北海ブレント6月限は6.4%下げて70.14ドル。

  ニューヨーク金相場は反落。トランプ米大統領が発表した一連の関税から、貴金属が除外されたことを受けて、それまで活発だった裁定取引が急停止した。裁定取引はこれまで、大量の金現物を米国に搬送する動きにつながっていた。

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  3日の米市場では金のプレミアムが大幅に低下。ニューヨーク商品取引所(COMEX)金期近物とロンドンの金スポット価格の差は、前日の1オンス当たり62ドル余りから、3日は21ドルに縮小した。

  コモディティーの裁定取引に特化したヘッジファンド、グリーンランド・インベストメント・マネジメントのアナント・ジャティア最高投資責任者(CIO)は「昨日の発表で先物・現物交換(EFP)のプレミアムは崩壊し、数カ月前から見られた大量の貴金属を米国に搬入する動きは終了した」と述べた。

  金スポット価格はニューヨーク時間午後2時10分現在、前日比26.15ドル(0.8%)安い1オンス=3108.02ドル。COMEXの金先物6月限は44.50ドル(1.4%)安の3121.70ドルで引けた。

原題:Stock Meltdown Fuels Worst S&P 500 Day Since 2020: Markets WrapTrump Tariffs Wipe Out $2 Trillion From US Stock MarketUS Stocks Tumble as Tariff War Ignites Growth FearsApple Suppliers Tumble as Tariffs Hit iPhone Supply ChainApple Production Hubs Hit by Tariffs, Sending Stock Plunging (2)Citi, Bank of America Lead Worst Rout Since Regional Bank CrisisRussell Hits Bear Market With Small Caps Buffeted by Tariff WaveUS 10-Year Yield Drops Below 4% for First Time Since Trump WonDollar Drops by Most on Record as Traders Brace for More PainCommodities Battered as Trump’s Tariffs Threaten Global EconomyOil Tumbles as Surprise OPEC+ Hike, Trump Tariffs Depress PricesThe Race to Get Gold Bars Into the US Screeches to a Halt (1)(抜粋)

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