女性初の「資産10億ドル超え」VC投資家、テレシア・ゴウとは何者か?(Forbes JAPAN)
インドネシアからの移民、元フィギュアスケーター、フェイスブックの初期投資家。そんな経歴のテレシア・ゴウ(57)が、米国で初めてかつ唯一の「保有資産が10億ドル(約1470億円。1ドル=147円換算)を超える女性ベンチャーキャピタリスト」となった。 米国初にして唯一の女性ビリオネア・ベンチャーキャピタリスト 「聡明で、いつも自分の意見をはっきり述べる。そしてベンチャーキャピタル(VC)業界・会議・投資の現場など男性ばかりの場において、ただひとりの女性として象徴的な存在感を放つ人でもある」。ヘルステック系スタートアップ「Solv」の共同創業者兼CEOのヘザー・フェルナンデスはゴウについてそう語る。以前フェルナンデスが幹部を務めていた不動産テック企業Truliaは、2005年にゴウの支援を受けていた。 インドネシアで中国系の両親のもとに生まれたゴウは、数々の「初」を達成してきた人物だ。3歳のときに米国へ移住した彼女は、高校では初めてブラウン大学に進学した卒業生となり、VCの名門アクセルでは初の女性パートナーを務めた。また、シリコンバレーで初の女性主導型のVCファームのひとつも共同設立している。「アメリカンドリームは、いつも私の物語の中心にある」と、ゴウは2023年にフォーブスに語っていた。 そして今回、彼女はまたひとつ新たな「初」を自身のキャリアに加えた。推定資産額が12億ドル(約1764億円)に達したゴウは、米国で初の女性ビリオネアのベンチャーキャピタリストになった。彼女の資産の多くは、15年間にわたって在籍したアクセルで築かれたもので、そこで彼女は、後に巨額のリターンを生んだフェイスブック(現メタ)への初期投資を主導したチームの一員だった。 ゴウは今、2023年10月に7億ドルを調達したアーリーステージに特化したVCの「Acrew Capital」を運営している。同社は、データとセキュリティやヘルスケア、フィンテック関連のスタートアップに投資しており、傘下の「ダイバーシティ・キャピタル・ファンド」では特に多様性に重点を置いた投資を行っている。2019年に設立されたAcrew Capitalの運用資産は、現在17億ドル(約2499億円)に達している。 ■トランプ米大統領が「過激で無駄」と呼ぶ逆風の中でダイバーシティ推進 女性の投資家が、VCの意思決定者(パートナー、マネージングディレクター、プリンシパル)に占める割合は、2024年にわずか17%だったとPitchBookの報告書は伝えている。また、少なくともひとりの女性共同創業者がいる企業が、VCから調達した資金の総額は、2024年では全体の約22%にとどまり、2023年の25%から減少した。つまり、男女の均衡がすぐに実現する見込みは薄い。 トランプ米大統領は1月の就任初日に、連邦政府の多様性、公平性、包摂性(DEI)プログラムを終了する大統領令に署名し、この取り組みを「過激で無駄だ」と呼んだ。さらに、グーグルやメタ、ゴールドマン・サックスなど、強力なコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)部門を持つ世界的企業の一部も、DEIの取り組みを縮小している。 こうした新たな状況にゴウがどう対応するのかは明らかでないが、彼女は長年にわたるDEIの強力な提唱者であり、複数の形でそれを行動に移してきた。ゴウは、創業チームの83%が女性または有色人種で構成されるAcrewを創設し、歴史的黒人大学(HBCU)をVCの世界に巻き込むイニシアチブを主導し、DEIに特化したファンドで現在3500万ドル(約51億円)を運用する「First Close Partners」を共同設立した。また、シリコンバレーでは、女性の創業者や投資家を支援する非営利団体「All Raise」を立ち上げた。 ■「少しずつ前に進んで、少し後退する。二歩進んで一歩下がるような感覚だ」 ゴウは、今回のフォーブスの記事や推定資産額についてのコメントを控えたが、2023年の取材で本誌に対し、「私は、自分の職業上の情熱と、テック業界におけるダイバーシティの推進という個人的な情熱とを結びつけられる今のポジションにとてもエキサイトしている」と語っていた。 彼女はまた、Acrewの「ダイバーシティ・キャピタル・ファンド」がテック系スタートアップの出資者に多様性をもたらすことを目的とした最大のVCファンドであり、当時すでに3億ドル(約441億円)超の資産を運用していると説明した。「私たちは、少しずつ前に進んで、少し後退する。それはまるで、二歩進んで一歩下がるような感覚だ」とゴウは述べていた。