ゲーミングPC大手Razer、ゲーム攻略支援AIを掲げ「業界を根底から覆す」(Forbes JAPAN)

ゲーミングPCなどで知られるRazer(レイザー)が、ゲームに特化したAIソフトウェア開発に乗り出した。創業者のミン=リャン・タンは「AIでゲーム業界を変える」と発言。ゲーム開発の品質保証(QA)工程を効率化するAIと、ゲーム攻略を支援するAIツールを準備中だ。コスト増と消費支出の冷え込みに直面するPCハード市場を補う新たな収益源となるか、業界と投資家が注目している。 ■AI開発を加速、Razerが新戦略を始動 Razerはシンガポールに7500万ドル(約110億円)を投じて地域本社を設立した。その黒い鏡張りのビルには、3つ頭の蛇をかたどった蛍光グリーンの巨大なネオンロゴが輝く。同社は、その内部の4フロアにわたるオフィス兼スタジオ空間で、最新の取り組みであるAIソフトウェアツール群の開発を進めている。 ●社内デモで不具合の自動検知を確認、音声ガイドが操作手順を提示 8月のある平日の朝、新設されたばかりのAIチームのメンバー2人が、会議室でノートPCを用い、最新のゲームソフトによるライブデモを行っていた。デモ用に整えた会議室の設備は、一見シンプルだが、実際は高度な仕掛けが組み込まれている。ノートPCの1台は壁掛けの大画面と同期され、シミュレーションゲームを実行している。 アバターが仮想世界を歩いていると、突然小さな光がモニターに現れる。それはゲームの一部ではなく、ソフトウェアの不具合を検出したサインだった。「音声が途切れる」「敵がプレイヤーの存在に反応しない」といった技術的な問題がログに表示される。マウス操作1つで、その詳細を確認できる仕組みだ。もう1台のノートPCでは、別のゲームが進行中で、音声によってプレイヤーに攻略の指示をリアルタイムで伝えていた。 ●「QA Co-AI」は年内投入予定、「Game Co-AI」は世界でベータを実施 これらのプログラムはまだ試行錯誤の途中にある。同社の人気マウス「DeathAdder」、eスポーツ用ヘッドセット「BlackShark」、「BlackWidow」キーボードのような派手な名前もつけられていない。しかしRazerは、現在開発中の2つのAIソフトが、ゲーム業界に大きな変化をもたらすと確信している。1つは、バグ検出やテスト工程を効率化する品質保証ソフト「Razer QA Co-AI」。もう1つは、プレイヤーにリアルタイムで攻略指導を行うコーチング用ソフト「Razer Game Co-AI」だ。 「AIの活用は、ゲーム業界全体を根底から覆すことになると信じている」と同社の47歳の会長兼CEO、タンは語った。おなじみの黒いTシャツにジーンズというカジュアルな服装だった。Razerは、シンガポールのハイテク企業が集まるワン・ノース地区にある本社内に「AIセンター・オブ・エクセレンス」と呼ばれるAI拠点も新設した。「私たちはこの分野の最前線に立ちたいと考えている」。 同社が今年後半に市場投入を予定する「QA Co-AI」は、ゲーム開発者の生産性を高めるツールだ。これにより、より短期間かつ低コストでゲームを完成させられるようになる。現在グローバルでベータテスト中の「Game Co-AI」は、プレイヤーがリアルタイムの指導を受けながらスキルを磨けるよう設計されたソフトだ。 ■ハード市場の停滞を背景にソフトウェアで新収益源と再上場を狙う タンは、こうしたソフトウェア製品群が新規の収益源を切り開くと期待している。Razerの売上全体の約9割は、ゲーム用ハードウェアや周辺機器が占める。しかし、420億ドル(約6.17兆円)規模のこの市場は、データによれば成長が鈍化している。ゲームのハードウェア分野は、過去の景気後退では影響を受けにくかったとされる。しかし、調査会社PitchBookのシニアアナリスト、エリック・ベロモは4月の報告書で、メーカー各社が苦境にあると指摘。その要因として、コスト高、インフレによる消費支出の低下、サプライチェーンの不確実性を挙げている。 ●AIゲーム開発市場は、2033年に約4.1兆円規模に拡大予測 その一方、AIを活用したゲームの開発市場は成長軌道にある。ニューヨークの調査会社Market.USによれば、AIを用いた「ノンプレイヤーキャラクター」などを含むこの市場は、2023年の23億ドル(約3381億円)から、2033年には280億ドル(約4.11兆円)規模へと拡大する見通しだ。「Razerは、単なるゲームのハードウェアメーカーから脱却し、ゲームの開発や体験のあり方を設計する存在へと進化する可能性がある」。データ分析会社ユーロモニター・インターナショナルのグローバルインサイトマネージャー、ルー・ウィー・テックはそう指摘する。

Forbes JAPAN
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