日銀審議委員に小枝早大教授、政策正常化を支持の可能性-政府提示

政府は28日、日本銀行審議委員の候補に小枝淳子早稲田大学教授を充てる国会同意人事案を衆参両院に提示した。金融政策運営に関しては日銀が進める正常化路線を支持する可能性が大きい。

  小枝氏はマクロ経済や国際金融が専門で、2022年4月から早大政治経済学術院で教壇に立っている。日銀金融研究所の国内客員研究員を務めた経験もあり、日銀が昨年12月に過去25年間の金融緩和策の効果と副作用について取りまとめた「多角的レビュー」では、ワークショップに指定討論者として参加した。

  昨年4月の日本経済新聞への寄稿では、同年3月のマイナス金利解除など大規模緩和からの脱却を「プラスの金利環境に回帰する歴史的に大きなステップ」と評価した。経済状況に応じた機動的かつ効果的な金融政策の実行のため、金融政策が波及する環境を整えることや、肥大化した日銀のバランスシートの縮小、財政の持続可能性の重要性を主張している。

  日銀は24日の金融政策決定会合で17年ぶりの高水準となる0.5%程度への利上げを決めた。利上げは昨年7月以来。植田和男総裁は会合後の記者会見で、金融政策の正常化推進に意欲を示した。小枝氏が同意を得られた場合、今後の正常化に向けた理論的なバックグラウンドが強化されそうだ。

  前日銀副総裁の若田部昌澄早稲田大学政治経済学術院教授は、小枝氏は「金利を上げることが経済を必ずしも収縮させるわけではないとしている」とした上で、「正常化を進めている日銀にとって好ましいと考えている可能性がある」とみている。

  3月25日に任期満了を迎える安達誠司審議委員の後任で、任期は5年。昨年10月に発足した石破茂政権が行う初の日銀政策委員会人事となる。金融政策などの議決権を有する9人の政策委員のうち、女性は中川順子氏のみ。1998年の新日銀法施行後で、政策委員に複数の女性が就任すれば初めてとなる。 

  小枝氏は99年に東大経済学部を卒業後、2005年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学研究科で博士号取得。国際通貨基金(IMF)のエコノミスト、東大経済学部経済学研究科の特任講師、早大政治経済学術院准教授や財務省財務総合政策研究所の総括主任研究官などを務めた。

  日銀出身の楽天証券経済研究所の愛宕伸康チーフエコノミストは、小枝氏について「日銀の政策的にはニュートラルで、今の日銀の考え方にあった人が選ばれた」とし、女性の政策委員が二人になるという観点からも、政治的には賛同を得やすいと指摘。学者として、「金利が実際に上がっていく中での実体経済への影響を意識したコミニュケーションが取れるかがポイントになる」と語った。

  安達氏は、積極的な金融緩和政策によって経済成長と緩やかなインフレを目指すリフレ派の論客として、デフレ脱却を掲げた安倍晋三政権が指名した。日銀は昨年3月のマイナス金利解除など大規模緩和から転換してから1年弱で3回の利上げを実施したが、安達氏はいずれも賛成票を投じている。

ジェンダーバランス

  政策委員人事は衆参両院それぞれの同意が必要で、衆院が少数与党の現状では、野党の対応も鍵を握ることになる。各党は人事案を持ち帰って、賛否を検討する。採決の具体的な日程は今後の衆参それぞれの議員運営委員会で協議する。

  国民民主党の浜口誠政調会長は27日のブルームバーグとのインタビューで、日銀の審議委員人事について、ジェンダーバランスを考慮した人選か確認するとの考えを示していた。

  シンクタンクの公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)が昨年6月に公表した「ジェンダーバランス指数2024」の中央銀行部門で、日銀は185行中156位となり、前年の144位から後退した。日銀の歴代の総裁や副総裁には女性は一人もいない。

  UBS証券の足立正道チーフエコノミストは、小枝氏の金融政策運営スタンスについて「安達氏がハト派だったことに比べると、小枝氏は中立とみている」と指摘。二人目の女性ということで、ジェンダーバランスを気にしている国民民主党などにはぴったりの人選との見方を示した。

  審議委員は日銀の最高意思決定機関である政策委員会の一員。政策委員会は総裁、副総裁2人、審議委員6人で構成される。今年は安達氏に続いて、中村豊明審議委員も6月30日に任期満了を迎える。

(若田部前副総裁のコメントなどを追加して更新しました)

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