違法移民がイギリスを引き裂いているとマムード英内相、BBC番組で発言 難民政策変更の方針

画像説明, BBCの日曜番組に出演し、移民政策について話したマムード英内相(16日)

イギリスのシャバナ・マムード内相は16日午前、BBCの番組に出演し、違法移民が「この国を引き裂いている」と述べ、難民受け入れ政策を抜本的に見直すための大規模な計画を発表する準備を進めていると話した。内相は、難民としてイギリスに入国した人は、定住を申請できるようになるまで20年待つ必要があるという措置を含めた、新政策を発表すると方針を示した。住宅・食料・生活費補助などの難民支援策についても、一部を見直すという。

マムード内相はBBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」で、違法移民問題に取り組むことを「道徳的使命」と見なしていると話した。

イギリスでは現在、難民資格を認められてから5年後に、無期限滞在許可または定住資格を申請できる。マムード内相はこの5年を20年に延長したい考え。新しい措置では、難民資格は2年半ごとに検討の上、更新されることになる。

内相が発表する予定の計画では、イギリス政府が、その人の母国を安全と判断した場合には、帰国を命じることになるという。

この政策変更は、イギリスを違法移民が目指したくない目的地に変え、小型ボートによる渡航や亡命申請を減らすことを目的とするもの。

難民受け入れ政策の抜本的な変更をめぐり、具体的な詳細や実務的な内容はまだ不明で、内相が17日に説明する見通しだ。

内相は番組内で、「違法移民のため、この国に非常に大きい分断が生じているのは承知している」、「亡命制度そのものを存続させるという国民的合意を維持するには、行動が必要だと考えている」と話した。

マムード氏は、「安全で合法的なルート」を利用して入国し、難民資格を得て、仕事を見つけ、社会に貢献する人は、20年より前に永住権を申請できる可能性があると述べたが、具体的な詳細は示さなかった。

内相が掲げるこの政策は、欧州で最も厳しい亡命・移民制度の一つをもつデンマークに触発されたもの。中道左派の社会民主党が率いるデンマークでは、難民に通常2年間の一時滞在許可が与えられ、この期限が切れると事実上、難民資格を再申請する必要がある。

デンマークのラース・ルッケ・ラスムセン外相は、同国の政策は「密航手配業者に向けて、デンマークを選ぶなとメッセージを送る」ためのものでもあると、BBCラジオに説明。「重要なのは、違法移民を防ぐためのバランスを取りつつ、必要な場合には合法的な移民を歓迎することだ」と外相は述べた。

動画説明, イギリスの難民受け入れ政策、内相が大幅変更目指す デンマークの制度にならい

マムード内相はまた、難民に提供する住宅や毎週の金銭的手当を「裁量的」なものにし、イギリスでの就労権を持ちながら働かない人から、住宅や生活費などの難民支援を取り上げる方針だと語った。

BBC番組ではローラ・クンスバーグ司会者が、そもそもイギリスの難民支援策がフランス、ドイツ、デンマークに比べて「寛大ではない」にもかかわらず、なぜその支援を撤回したいのかと内相に質問した。

これに対して内相は、犯罪組織が亡命希望者に対して、イギリスでは無料でホテルで暮らせる、無料で食事が与えられると宣伝してイギリス密航パックを販売しているのだと答え、「その誘惑に、私たちは対応しなくてはならない」と述べた。

現行制度では、就労権を持つ難民のうち10%が、自分で働き自立するとは「想定されていなかった」と内相は述べた。さらに、「この国の法律に違反しても住む場所を失うと想定されていなかった」とも話した。

「ということは、この国の公営住宅に住むイギリス市民の大半よりも、そういう人たちが優遇されていることになってしまう」と内相は述べ、これは「公平性の基本原則」の問題だと話した。

マムード内相はこのほか、アフリカのアンゴラ、ナミビア、コンゴ民主共和国(旧ザイール)の各政府が、送還に関する協力を迅速に改善しなければ、イギリスは各国国民へのビザ(査証)発給を停止すると発表する方針。

内務省関係者によると、この3カ国が対象となる理由について、「容認できないほど低水準の協力姿勢のほか、本国送還手続きが容認できないほど妨害的」だからだという。

英紙タイムズが最初に報じたところによると、この3カ国からの違法移民や犯罪者がイギリス国内に数千人いるとされるため、厳しい政策の対象となったという。

画像説明, BBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」で、クンスバーグ司会者の取材に答えるマムード内相

違法移民問題に対するマムード内相の強硬姿勢については、与党・労働党の中でも一部の議員が反発している。

労働党のクライヴ・ルイス議員はBBCに対し、マムード氏が参照しているデンマークの制度は「極右の主張を反映したものだ」と批判。左派の支持者が労働党から離れ、野党・緑の党に流れる可能性を警告した。

内相はこれに反論し、「私自身が移民の子供だ。私の両親は60年代後半から70年代にかけて合法的にこの国に来た。移民制度は、私がイギリス人として経験してきたことに深く織り込まれているし、私の選挙区に住む大勢の市民にとっても同様だ」と、番組で述べた。

「これは私にとって道徳的使命だ。なぜなら、違法移民がこの国を引き裂き、地域社会を分断しているのが見えるからだ。自分たちの地域社会に大きな負担がかかっているのを、大勢が目にしている。制度が壊れているのも目の当たりにしている。規則を無視する人たちが制度を悪用し、罰を免れているのを見ている」と、内相は力説した。

マムード内相が出演した番組には、最大野党・保守党のクリス・フィルプ影の内相と、野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首も出演した。

フィルプ氏は、マムード氏の改革案を「見せかけ」と一蹴。クンスバーグ司会者に対し、それは単に「問題の周辺をいじっているだけだ」、「原則として反対はしないが、うまくいかないはずだ」と述べた。

フィルプ氏はさらに、保守党が政権与党ならば欧州人権条約(ECHR)からイギリスを脱退させると付け加えた。

「さらに言えば、誰かが違法にここに来た場合、そもそも亡命申請を認めないし、1週間以内に国外退去させるべきだ」とも、フィルプ氏は主張した。

ECHRについては、マムード内相は17日にも、ECHR第8条が定める家族として生活する権利を、移民案件にどう適用するか政府方針を説明する予定。

一方のデイヴィー氏は、亡命希望者に就労権を与えるべきだと主張。そうすれば「(公的)支援は不要になり」、それは「経済にとっても、亡命希望者にとっても良いことだ」と述べた。

また、亡命制度に関する政府案について「いくつか懸念がある」と述べたが、「詳細を確認する」と話した。

野党リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首はソーシャルメディアで、マムード内相が「リフォームUK支持者のように聞こえる」と述べ、「人権法とECHRと、そして彼女自身の党内議員たちのせいで、これは決して実現しない。残念な話だ」と付け加えた。

英慈善団体・難民評議会のエンヴァー・ソロモン最高責任者は、20年という期間は移民を阻止するどころか、「実に長い年月にわたり、人を中途半端な状態に、不安と緊張の中に置くことになる」と述べた。

「必要とされているのは、適切に管理された公平な制度だ。そのためには、公平かつ迅速に判断を下す必要がある。そして、誰かが難民だと認められた場合は、その人がこの国の地域社会に貢献し、恩返しできるようにすることが必要だ」と、ソロモン氏は16日のBBC番組「ブレックファスト」で主張した。

デンマークの厳格な亡命制度の中で13年にわたり暮らしてきたシリア難民のアゴブ氏はBBCに対して、制度の不確実性は「体に染みこむ」と話した。

デンマークでの難民としての生活は、「自分の生活を一から立て直しながら、それがいつでも全て奪われる可能性があると知っている」状態なのだと、アゴブ氏は説明した。

「社会の制度が常に相手を一時的な存在として扱っている中では、真の統合はできない」

移民に関するデータ収集・観測を行う英オックスフォード大学の移民観測所を率いるマデリーン・サンプション氏は、個別の政策が難民の数にどのような影響を与えるか測定するのは難しいと話す。

「少なくとも当初は、亡命希望者は政府の政策を知らないことが多い」とサンプション氏はBBCに話した。

そのため、イギリス政府の規則が以前より厳格化していても、大勢が依然としてイギリスを目指す理由はたくさんあると、サンプション氏は指摘した。これには、英語を話す、すでにイギリスに家族がいる、あるいはすでに別の国で難民申請を拒否されたなど、さまざまな理由が考えられるという。

内務省統計によると、今年3月までの12カ月間にイギリスで亡命を申請した人は、前年同期比17%増の計10万9343人だった。

難民評議会のソロモン氏は、亡命申請が増えていることへの懸念は、「政府は自分たちの地域社会を忘れてしまったと(多くの国民が)感じている」からだと話す。

内務省によると、マムード氏が今年9月5日に内相として就任して以来、小型ボートによる入国は1万289件に達している。2025年のこれまでの総数は3万9000人超。小型ボートによる今年の到着者数は、2024年(3万6816人)や2023年(2万9437人)の総数を上回っているが、2022年同時期の3万9929人には及んでいない。

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