テスラがオートパイロットによる致命的な衝突事故に関する「重要なデータはなかった」と主張するもハッカーが車両からデータを復旧
テスラのモデルSを運転中にオートパイロット機能を使った運転手が、目を離した隙に2人を死傷させた事故が2019年に発生しました。テスラは衝突事故発生時の重要な電子データを保有していないと発表していましたが、テスラを訴えた原告側が車両から回収したチップからのデータ復旧をハッカーに依頼したところ、ハッカーは事故発生時の電子データが残っていることや、テスラが最初からそのデータを保存していたことを明らかにしました。
Tesla said it didn’t have critical data in a fatal crash. Then a hacker found it. - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2025/08/29/tesla-autopilot-crashes-evidence-testimony-wrongful-death/Tesla says Musk Autopilot claims should not have been heard in fatal crash case https://electrek.co/2025/08/29/tesla-asks-court-to-throw-out-243-million-verdict-in-fatal-autopilot-crash-case/ 2019年4月に、フロリダ州キーラーゴを走行していたテスラのモデルSが、交差点で停止できずに駐車中のSUVに衝突して近くに立っていた2人を死傷させる事故が発生しました。 証拠として提出された資料によると、モデルSはオートパイロット中で、運転者はスマートフォンを探すために道路から一瞬目を離していたところ、一時停止の標識および赤信号を無視し、SUVに衝突したそうです。
けがを負ったディロン・アングロ氏は運転手と和解に達した後、2024年に「テスラが高速道路でのみ作動するオートパイロットを本来想定されていない一般道路で作動させた」として、テスラを提訴しました。テスラは「スマートフォンを探したのが原因だ」と自身の責任を認めている運転手に全面的な責任があると主張しましたが、「テスラは欠陥のある車両を市場に投入した」と陪審は指摘し、同社に損害賠償負担と懲罰的罰金合わせて2億4300万ドル(約359億円)の支払いを命じました。
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訴訟に際してテスラは、事故の前後におけるデータを保有していないと発表していました。テスラの弁護士であるジョエル・スミス氏は、「テスラはデータの取扱いに不注意だったものの、不正行為は一切行っていません」と述べ、裁判所にデータを提出できなかった理由を説明しました。
原告側の弁護士はテスラから事件発生時のデータを回収するため何年も働きかけたものの2024年まで成功せず、データなしで裁判に臨む準備をしていました。しかし、最後の手段として、損傷したテスラからデータを復旧してソーシャルメディアに投稿する活動を行うハッカーのgreentheonly氏に依頼をしました。
以下は、greentheonly氏が公開した普段使用しているワークスペース。今回のケースでは、フロリダ州ハイウェイパトロールから回収した制御ユニットを調べるために、原告側の弁護士とgreentheonly氏が飛行機でフロリダ州マイアミ空港まで訪れ、空港近くのスターバックス店内でオートパイロットユニットのコピーを確認したそうです。New: Tesla said it didn't have critical data in a fatal crash. Then a hacker found it. "For any reasonable person, it was obvious the data was there."
The story of white hat hacker @greentheonly's role in the case the led to a $243 million verdict against Tesla. pic.twitter.com/u1sBoxLfga
— Faiz Siddiqui (@faizsays) August 29, 2025
結果として、greentheonly氏は事件発生時のデータを復旧することに成功。さらに、衝突直後に衝突時のスナップショットをテスラが受け取っていたことも確認され、「データが存在しない」というテスラの主張は虚偽であることも判明しています。greentheonly氏は「理性的な人間なら誰でも、データがそこにあったことは分かるはずでした」として、データが見つからないとしたテスラの主張に疑問を述べました。 原告側の弁護士らは「テスラはデータを最初から入手していたにもかかわらず、そのデータについて捜査官らを何年も欺いていました。意図的以外の何ものでもありません」と指摘しました。一方でテスラの弁護士であるスミス氏は、事件発生時の映像は「運転者が目を離していなければ、十分に事故を阻止できる時間があった」ことを示す映像であり、「テスラは最初からこの証拠があれば裁判を有利に運べたのに、映像を提出しなかったのは、隠したからではなく見つけられなかったからです」と述べました。 結果的にテスラは事故の33%の責任を負い、損害賠償負担と懲罰的罰金を合わせて2億4300万ドル(約359億円)の支払いを命じられました。データを提出しなかったことについては、原告がデータ取得のために費やした全費用をテスラが弁済する必要があると命じられました。しかし、「データを提出しなかったことが故意であったという『十分な証拠』は認められなかった」と判決が下されています。
判決の後、原告側の弁護士は声明を発表し、「今回の申し立ては、テスラとイーロン・マスク氏が自社の欠陥技術による人命への被害を完全に無視していることを示す最新の事例です。陪審員はすべての事実を検討した上で、運転者とテスラが共同して責任を追うべき事案だという正しい結論に達しました。事故の責任は運転者に大きな割合が認められましたが、それはテスラに責任がないということではありません。この判決は、自動運転車業界への告発ではなく、テスラによるオートパイロットシステムの無謀かつ危険な開発と展開に対する告発となるものです」と述べています。 2025年8月にテキサス州で提起された株主訴訟では、「自動運転技術のプロモーションで投資家を欺いた」として、テスラが不法行為および不作為の件で告発されています。電気自動車愛好家向けサイトを運営するフレッド・ランバート氏は、「テスラによるデータの取扱いが注目された今回の訴訟は、データがあるかどうか、データをサルベージできたかどうかが裁判の結果に影響を与えたと考えられる点で、ある意味先駆的な訴訟です」と指摘しました。
ソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも今回の報道が話題になっており、重要な車両データの扱いに関するテスラの手順について疑問を指摘するコメントや、実際の事件の映像から「車両と歩行者を検知した上で衝突するオートパイロットはどれだけひどいのだろうか?」と問題点を再確認する意見が寄せられています。また、実際に廃車になったテスラ・モデル3のユニットからハッキングを試したことがあるというユーザーは、システムにアクセスすることで記録された位置情報を全て取得し、以前の所有者の生活や廃車になった位置情報の記録などを確認できたと報告しています。
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