商業施設やマンション駐車場に残る「永遠の化学物質」PFAS…泡消火剤の交換費用がネックに
全国の商業施設やマンションなどの駐車場で、発がん性が指摘される有機フッ素化合物「 PFAS(ピーファス) 」を含む泡消火剤の交換が進んでいない。河川への流出事故も起きており、政府は今年度、保管場所や在庫量の把握を進め、管理者に適正な取り扱いを求める方針だ。(田中洋一郎)
ホームセンター地下駐車場で誤噴射し川に流入
京都市のホームセンターの地下駐車場で昨年12月、天井のスプリンクラーが軽トラックの荷台の木材と接触して破損し、泡消火剤が誤って噴射された。大量の白い泡が店舗外にあふれ出た。
PFASを含む大量の泡消火剤はホームセンターのフェンスを越え、川に流入した(昨年12月、京都市で)=京都府提供消防隊員らが土のうを積んで周囲への漏出を止めようとしたが、一部は近くの川に流入。京都府が翌日、下流で検査したところ、PFASの代表的物質、 PFOS(ピーフォス) と PFOA(ピーフォア) が1リットル当たり計49ナノ・グラム検出された。
両物質は健康への悪影響を指摘され、2021年までに国内での製造や輸入が全面禁止された。ホームセンター側は規制前に泡消火剤を購入しており、規制物質を含有していることを知らなかった。今回の流出では国の暫定目標値(1リットル当たり50ナノ・グラム)をわずかに下回ったが、府環境管理課の峯勝之課長は「府も泡消火剤がどこに保管されているか実態を把握していない。流出を察知していない事例がほかにもあるかもしれない」と懸念する。
公共施設では交換進む
PFOSやPFOAを含む泡消火剤は消火性能が高く、大きな火事が起きる恐れのある施設の消火設備に広く導入された。政府は製造・輸入を禁止して以降、購入済みの泡消火剤を代替品と交換するよう推奨している。
その結果、消防署や空港、自衛隊施設など公共施設で順調に交換が進み、PFOSを含む泡消火剤は24年度、全国で185万リットルと、20年度の前回調査時(338万8000リットル)から半分近く減った。しかし、駐車場は新たな保管場所が見つかったこともあり、96万2580リットルと前回(80万5000リットル)から増加した。
駐車場は民間経営が多く、コストの高さが交換を妨げている。日本消火装置工業会によると、泡消火剤を交換するには設備工事費と合わせ、1000万円以上かかるうえ、工事期間中は駐車場を閉鎖する必要がある。東京都は昨年度から、事業者向けに交換費用の補助を始めたが、申請は数件にとどまるという。同会の入江健一主査は「交換に二の足を踏む事業者は多い」と話す。
注意喚起に焦点
政府が従来行っていた保管場所と在庫量の調査は、消防機器の点検を行う民間業者からの情報提供に頼っていたため、一部の把握にとどまっていた。
そこで環境省は今年度から、各地の消防署が持つ管内全ての消火設備の情報を入手し、施設管理者に泡消火剤を保管しているか確認する。泡消火剤の商品名やメーカー名からPFOSやPFOAが含まれているか調べ、含有していれば、管理者に「火事などで噴射した際、残った泡を排水溝に流さず、業者に回収依頼する」などと適切な取り扱い方法を伝える。
同省化学物質審査室は「泡消火剤はマンションや職場など身近な場所に保管されている。管理者は泡消火剤にPFOSやPFOAが含有しているか確認してほしい」としている。
来春から定期検査対象
PFOSやPFOAへの国の規制は強まり、来年4月には水道法上の「水質基準」の対象となる。ただ、健康への悪影響について十分な知見が確立されているわけではない。
水質基準の対象になると、全ての水道事業者は水道水にPFOSやPFOAが含まれていないか定期的に検査しなければならない。含有量が水1リットル当たり50ナノ・グラムを超えた場合は給水停止のうえ、水質改善を求められる。ミネラルウォーターなどの飲料水も、来春をめどに同様の水質基準が設けられ、飲料メーカーに製品の検査や品質管理が義務づけられる。
世界保健機関(WHO)の下部組織「国際がん研究機関」は2023年、PFOAを「人に対し発がん性がある」、PFOSを「発がん性の可能性がある」と分類した。しかし、発がん性の強さや摂取量に応じた健康への影響は示していないため、各国の規制はまちまちだ。米国は水質改善を求める基準値を、日本の水質基準より厳しい1リットル当たり4ナノ・グラムとしている。
◆PFAS =1万種類以上ある有機フッ素化合物の総称。水や油をはじき、熱に強い性質から、フライパンのコーティングやはっ水スプレー、泡消火剤などに広く使われた。自然界で分解されず、人体に長く残留するため、「永遠の化学物質」と呼ばれる。