米、DeepSeekがエヌビディア半導体をシンガポール経由で入手か調査
米当局は中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)がシンガポールのサードパーティーを通じて米エヌビディアの先端半導体を購入し、AIタスクに使用される半導体販売を巡る米国の規制を回避したか調査している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
ディープシークは最近、「R1」と呼ばれるAIチャットボットモデルを公開。R1は幾つかの点で米の同等ツールに匹敵する性能を発揮し、中国がAI競争でこれまで考えられていたよりも先を行っていることを示唆している。一部の著名エンジニアはR1の能力に驚く一方、ディープシークはツールの低コストと効率性をアピールしており、ライバル企業からは欧米の技術を導入して構築されたものではないかとの臆測も出ている。
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非公開情報だとして匿名を条件に話した関係者によると、ホワイトハウスと米連邦捜査局(FBI)の当局者もディープシークがシンガポールの仲介者を使い、中国への販売が禁止されているエヌビディアの半導体を購入したか確認を進めている。
ディープシークにコメントを求めたが、すぐには返答がなかった。エヌビディアの広報担当者は資料で、「当社は適用される全ての法律を順守することをパートナーに求めており、それに反する情報を受け取った場合は、それに応じて対応する」と回答。同社は今週、ディープシークに関する発表文を出し、ディープシークは米規制に違反していなかったと同社が考えていることを示唆していた。
FBIの報道官はコメントを控えた。ホワイトハウスの担当者にもコメントを求めたが、すぐには返答がなかった。在ワシントンのシンガポール大使館とは業務時間外のため連絡が取れなかった。
対中規制の有効性
トランプ大統領が次期商務長官に指名したハワード・ラトニック氏は29日開かれた上院の指名承認公聴会で、ディープシークが米国の輸出規制を回避したとの見方を示した。
ラトニック氏は「彼らが大量購入し、回避する方法を見つけたエヌビディアの半導体でディープシークモデルを動かしている」と主張。「終わりにしなければならない。彼らがわれわれと競争するつもりなら、そうすればよい。だが、われわれとの競争でわれわれのツールを使うのはやめてほしい。従って、私はその点に関して非常に厳しく対応するつもりだ」と発言した。
ディープシークが今回示した飛躍的な前進は、中国を先端技術から遮断しようとする米国の試みの有効性に関して議論を引き起こした。さまざまな半導体と製造装置を対象とする同規制は、中国の半導体産業発展の取り組みを遅らせ、中国を軍事的優位に立たせる潜在力を秘めるAIにアクセスできないようにすることを目的としている。
ディープシークはモデル開発に使用したAI半導体を完全には明らかにしていないが、先月リリースされたV3モデルはエヌビディアの「H800」を2048個使って訓練されたと研究者は論文で指摘。H800はバイデン前米政権が高性能なバージョンへの中国のアクセスを制限したことを受け、エヌビディアが中国市場向けに開発したものだ。
その後、米当局は2023年10月にH800などエヌビディア製半導体を中国向けに禁止したため、エヌビディアは同市場向けに「H20」と呼ばれ、性能をさらに落とした別の半導体を設計することになった。トランプ政権当局者は現在、H20も制限するかどうか協議を始めている。
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シンガポールでの売上高
米当局は中国に販売できない半導体の種類を拡大するとともに、規制の地理的範囲も広げ、より多くの国を対象としている。
23年、当時のバイデン政権は半導体を中国に向かわせる仲介役となる恐れがあると懸念される40カ国超に制限を設けた。これには中東諸国の大半や東南アジアの一部も含まれたが、シンガポールは入っていなかった。
今年に入り、バイデン政権はこの規制をさらに拡大し、米国の一部の同盟国を除き世界の大半を対象とした。シンガポールへの大量出荷は、ほとんどの国と同様、現在ではライセンスを必要とする。1700個程度未満のプロセッサーの出荷については、届け出だけが必要となる。
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規制当局への提出書類によると、シンガポールはエヌビディアの売上高の約20%を占めている。しかし、「シンガポールでの売上高に関係する大半の出荷はシンガポール以外の場所へのものであり、シンガポールへの出荷はわずかだった」とされた。
エヌビディアの広報担当者は、シンガポール関連の売り上げは中国への迂回(うかい)を示すものではないと説明。「当社の公的書類では、顧客の所在地は『出荷先』ではなく『請求先』と記載されている」とし、「当社顧客の多くはシンガポールに事業体を持ち、米国や西側向けの製品にその事業体を利用している」と話した。
原題:US Probing If DeepSeek Got Nvidia Chips From Firms in Singapore(抜粋)