チャイナリスクの不安と現実 中国人ツアー2千人予約取り消し、キャンセル料免除要求も

高市早苗首相(春名中撮影、左)と中国の習近平国家主席(ロイター、右)

高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に反発した中国政府の相次ぐ対抗措置は、改めて「チャイナリスク」を顕在化させた。中国政府による日本への渡航自粛の呼びかけを巡っては、「影響は限定的」とみる観光事業者もある中、中国人団体客をメインとしていた地方のホテルでは相次ぐキャンセルに先行きを懸念している。「脱中国依存の必要性」が指摘されつつも明暗が分かれている。

訪日客などで混み合う京都・清水寺近くの産寧坂

「当面は乗り越えられるが…」

「これまでに約2千人のキャンセルが発生した。政治リスクを見越した運営にしているので、当面は乗り越えられるが、長期化すると厳しい」。愛知県蒲郡(がまごおり)市の創業45年の老舗「蒲郡ホテル」取締役の竹内佳子さんはこう打ち明ける。

114の客室を備える同ホテル。インバウンドがよく訪れる東京や大阪、京都の間の「ゴールデンルート」に位置することもあり、約30年前からインバウンドを対象としたプロモーションを強化し、近年は中国人団体客をメインターゲットとしてきた。「そもそも日本人観光客やビジネス目的の客は少ない。宿泊客のうち7、8割は中国人団体客が占めている」という。

しかし、中国が渡航自粛を呼び掛けて以降、11、12月に入っていた60件以上の団体予約はすべてキャンセルに。23日現在で2千人規模に上る。「キャンセル料を免除してほしい」ともいわれており、頭を抱えている。現地の旅行会社とのやり取りは日本の手配代行会社に任せているが「どこにキャンセル料を請求すればよいのかもわからない」と悩む。

ツアーのまとめ役となっていた中国人のガイドも「仕事がなくなったのでやめます」と去っていったという。

これまでにもこうした事態はたびたびあった。平成24年に日本政府が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を国有化した際も中国人客はゼロになった。新型コロナ禍のときも同様だ。ある程度政治リスクを考慮した経営体制にはしているが「地方のうちみたいなホテルにとっては完全に脱中国依存とはいきにくい」と打ち明ける。

白浜旅館「これまでと比べると…」

「痛手ではあるが、次のお客さまをどう呼び込むかを考え乗り切りたい」。そう力を込めるのは和歌山県白浜町の旅館「紀州白浜温泉むさし」の女将、沼田弘美さん(54)。同旅館では月末に予約が入っていた中国からの団体客69人分がキャンセルとなり、無断キャンセルの個人客も出始めているという。

旅館のある白浜地域一帯ではコロナ禍以降、観光業界が大きな打撃を受ける出来事が続いている。昨年の南海トラフ地震臨時情報や、今夏のカムチャツカ半島付近の地震による津波警報などいずれも海水浴客が増えるシーズンの発生で、集客に影響を与えた。

さらに今年6月には和歌山アドベンチャーワールドのジャイアントパンダも中国に返還され、地域をあげて「ポスト・パンダ」を乗り越えようと気持ちを新たにしたタイミングでの日中問題。

だが、沼田さんは「これまでの数々のトラブルに比べればまだかわいいものと思えるくらい、特にこの2年は多くのことを経験した」と苦笑する。

和歌山を訪れる訪日外国人観光客数は全体の1割程度ということもあり、「他の観光地はもっと打撃を受けているところもあると聞く。今はだめでもまたの機会に来てもらいたい」と話していた。

遊泳客らでにぎわう白良浜。コロナ禍や海水浴シーズン中の津波警報などでここ数年、観光業界は打撃を受け続けている

「影響は限定的」

国内外で都市型ホテル、リゾート型ホテルの運営を行っているベルーナ(埼玉)は渡航自粛の呼びかけについて「現時点でキャンセルは発生しているものの、大きな変動はみられず、影響は限定的だ」とする。

ホテル全体の中国人宿泊者の割合は令和7年度上半期は約2%と低い水準の一方、日本人旅行者は約62%を占めたという。同社は「海外ツアー団体客への過度な依存を抑えた運営を行ってきた結果、個人宿泊者の利用が相対的に多くなっている」とし、引き続き動向を注視するとしている。(有川真理、木ノ下めぐみ)

「影響は予測できない」すでにキャンセル電話も 中国人の訪日自粛はカントリーリスクか

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