ネアンデルタール人は「直系の祖先」ではなかった…ノーベル賞受賞者・ペーボ博士が解き明かした「人類の起源」(小林 武彦)

残念なことに、最初にアフリカを出たヒトの祖先は、はるばるインドネシア、中国などに辿り着いたものの、その後の化石は見つかっておらず、そこで滅びた可能性が高いです。30万年ほど前、ジャワ原人、北京原人がまだいた頃、アフリカでは新たなヒトが誕生していました。彼らもアフリカを出てヨーロッパ、アジアの寒冷地まで移動していきました。ヨーロッパではネアンデルタール人と呼ばれる「旧人」です。

彼らの脳の容積は1200mlを超え、顔も現代人に近くなっています。知能や技術も発達、進歩しており、おそらくそれが寒冷地での生存を可能にしたのでしょう。体毛はだいぶ減り、火を使用し衣服をまとい、食生活は雑食で大きな獲物も集団で仕留めていたようです。

美術作品も多数残っており、有名なところでは2018年にスペインの洞窟で見つかった6万5000年前の壁画があります。彼らは4万年ほど前まで生きていたと考えられています。化石の発見当初は、その技術レベルや骨格の類似性から私たち現代人の直系の祖先と考えられていました。

スペインにある洞窟の壁画 photo by gettyimages

ネアンデルタール人のゲノム解析をすると…

沖縄科学技術大学院大学(OIST)教授のスヴァンテ・ペーボ博士は、ネアンデルタール人の化石からDNAを抽出しそのゲノム(遺伝情報)を解析しました。その結果、現代人に受け継がれているネアンデルタール人由来のDNA断片を全て集めると、半分以下のおよそ40%が私たち現代人に受け継がれているそうです。

だとすると、直系の祖先はまだ他にいるということになります。ちなみにペーボ博士は、古代人ゲノム解析の業績で2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

スヴァンテ・ペーボ博士 photo by gettyimages

そして最後に現れたのは、現在も生きている現生人類の直系のご先祖様である「ホモ・サピエンス(新人)」です。このあたりからは化石の状態もよく、DNAを抽出することも可能になってきました。

特によく使われるのは、ミトコンドリアという細胞内の小器官のDNAです。ミトコンドリアは酸素呼吸でエネルギーを作り出す器官で、自前のDNAを持っています。ミトコンドリアのDNAは細胞の核にあるDNAに比べると小さく、逆に数は多いので多少古くても配列の解読が可能な場合があります。またミトコンドリアは母親からしか受け継がれないので、両親で混ざり合うことはなく、ルーツを辿りやすいという利点もあります。

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