老化に打ち勝つためのシンプルな3つのルール──特集「THE WORLD IN 2025」

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科学者が奇跡の薬を開発するのを待つ間、老後も元気に生きるためにわたしたちが自力でできる簡単なことがある。ノーベル賞受賞科学者が教える3つのルールは、どれも明日から実践できるシンプルなものだ。
Illustration: Simon Landrein

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.55 特集「THE WORLD IN 2025」の詳細はこちら

世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く恒例の総力特集「THE WORLD IN 2025」。構造生物学者のヴェンキ・ラマクリシュナンは、年を重ねても健康であり続けるために、生物学と医学の進歩がもたらした知見を活かそうと呼びかける。

人間は、自分がいずれ死ぬことを意識する唯一の生き物かもしれない。だからこそ、その避けられない結末をいかに先延ばしにするか、それが無理ならいかにして人生を最大限いいものにするかに執着する。それでも、種としての誕生以来ずっと、人間が老化や死についてできることはほとんどなかった。実際、歴史の大半において、ほとんどの人間は老化さえし始める前に死んでいたのだ。ここ数十年でようやく、分子生物学や細胞生物学の研究が進み、老化の原因に対して理解が深まってきた。ついに、老化そのものに対抗できる可能性が出てきたのだ。

研究者たちはさまざまな老化対策を探っている。例えば、カロリー制限がもたらす連鎖的反応による老齢動物の健康マーカー改善、炎症性化合物を分泌し加齢に伴って増加する老化細胞へのアプローチ、幹細胞の増加、細胞内でエネルギーを代謝するミトコンドリアの活性化などだ。

これらはすべて有望な方法だが、人体における効果と安全性が証明されるまでにはまだ時間がかかるだろう。生物医学の研究機関が老化そのものに強力に抗う方法を考え出すまでの間、わたしたちにも簡単にできることが3つある。年を重ねても健康であり続けるために、生物学医学の進歩がもたらした知見を生かせばいいのだ。

カロリー制限食とは、必要な栄養素をすべて摂取しつつカロリーを最低限まで抑えた食事を意味する。しかしその食生活を続けるのはほとんどの人にとって難しく、傷の治りが遅くなったり、特定の感染症にかかりやすくなったり、筋肉量が減ったり、寒さを感じやすくなったり、性欲が減退したりすることが報告されている。だが、バランスのとれた適量の食事でも、カロリー制限食に見られる効果の多くが得られるはずだ。これはマイケル・ポーランが最もうまく表現している──「食べなさい。食べ過ぎずに。植物中心で」

2. 運動を続ける

体を動かすと、ミトコンドリア産生を刺激する反応経路の多くが活性化される。運動はまた、加齢とともに深刻になる筋肉量や骨量の減少を防ぐほか、糖尿病と肥満の予防、睡眠の改善、免疫力の強化にも役立つ。有酸素運動は心臓と血管を健康にし、負荷運動は筋肉量の維持に役立つ。どちらの運動も大切だ。

3. 十分な睡眠をとる

睡眠は生命にとって欠かせないものであり、すべての動物は睡眠に相当する行動をとる。睡眠は細胞へのダメージの蓄積を防ぐ修復メカニズムに関係しており、睡眠不足は心血管疾患、肥満、がん、アルツハイマー病など、加齢に伴う多くの病気のリスクを高める。十分な睡眠時間の確保は必要なことなのだ。

3つの効果を組み合わせよう

食事、運動、睡眠の3要素を組み合わせれば、いまあるどんな治療法よりも効果を発揮するだろう。これら3つは互いに相乗効果を生み出す。それぞれがほかのふたつの実践を助けるのだ。例えば、運動するとその日はよく眠れる。さらに、この3つはすべて、老年期の多くの病気の原因となる肥満の予防など、健康的に年を重ねるためのほかのさまざまなことにも役立つ。

以下の要因にも気をつけよう

ストレス:ストレスには、健康を害し老化を加速させるさまざまな代謝作用があることが知られている。ストレスを減らすことは難しくても、前述の3つの習慣はストレスの軽減にもつながる。

孤立:多くの人口調査により、孤独が老後の健康に悪影響をもたらすことがわかっている。社会が分断されがちな現代では、年齢を重ねても社会とのつながりを維持し育むことが大切だ。

目的:強い目的意識をもつ人は健康で長生きしやすいということがわかっている。ある研究によると、目的意識を育むのに効果的な方法のひとつは、世間とのかかわりをもたらし地域や社会に貢献する活動にボランティアとして参加することだ。

以上の対策以外にも、早いうちから血圧、コレステロール、糖尿病の検査を定期的に受けることは重要だ。これらに対する治療はいずれも簡単かつ安価にできるので、老後を健康に過ごす可能性を高められる。さらに、治療可能な病気を早期に診断するための優れたマーカーも増えている。とりわけ乳がん、子宮頸がん、大腸がん、皮膚がん、前立腺がんは早期に発見することで予後が良好になる。

ヴェンキ・ラマクリシュナン | VENKI RAMAKRISHNAN構造生物学者。リボソームの構造と機能に関する研究により2009年ノーベル化学賞を受賞。2015-20年まで王立協会会長。新著『Why We Die』(未邦訳)は、人類が寿命を延ばす仕組みを老化の生物学からひもとく。

(Originally published in the January/February 2025 issue of WIRED UK magazine, translated by Risa Nagao/LIBER, edited by Michiaki Matsushima)

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