人間に菌を意図的に感染させた実験でこれまで考えられていた薬剤投与量の「常識」が変わる発見が成し遂げられる

サイエンス

感染症予防に使われるペニシリンは、化膿レンサ球菌に対しては1950年代に決定された「黄金比」で投与することが習慣づけられています。ところが、あえて菌を人間に感染させるというユニークな実験で、投与量はもっと少なくても問題がないことが明らかになりました。

Establishing the lowest penicillin concentration to prevent pharyngitis due to Streptococcus pyogenes using a human challenge model (CHIPS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial - The Lancet Microbe

https://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(24)00306-9/fulltext

Deliberately infected participants lead to penicillin advance

https://medicalxpress.com/news/2025-06-deliberately-infected-penicillin-advance.html

化膿レンサ球菌(A群β溶血性レンサ球菌)はのどの痛みや急性リウマチ熱を引き起こすもので、命にかかわる腎疾患、敗血症、心不全にもつながる可能性があります。特に急性リウマチ熱およびリウマチ性心疾患と診断された患者は、10年間にわたり毎月1回、痛みを伴う筋肉内注射でベンザチンベンジルペニシリンを投与し再感染を防止する必要があります。 ベンザチンベンジルペニシリンの使用法は、1950年代にその有効性が初めて実証されて以来ほとんど変わっていないそうで、血中目標濃度が1ミリリットルあたり20ナノグラムと決まっており、長い間この量について検証されたことはありませんでした。「20」という数値は順守すべき黄金の基準値として知られていますが、この濃度で筋肉に注射すると極めて痛みが強く、月1回のスケジュールを守ることが非常に困難になり、多くの患者が必要な治療をすべて受けられていないという問題があるそうです。

そこで、西オーストラリア大学やオーストラリアに拠点を置く感染症研究センターの研究者らは、化膿レンサ球菌を被験者へ意図的に投与し、再感染を予防するために必要な薬剤の量を調べるという実験を行いました。 その結果、感染を予防するために必要なペニシリンの濃度は、過去75年間患者に投与されてきた量の半分未満、1ミリリットルあたりわずか8.1ナノグラムで十分であることが判明しました。 研究に携わったローレンス・マニング氏は「感染症専門医として、通常は患者を治療するのではなく、意図的に感染させることはしません。しかし、この研究は、現在の治療法に根本的な変更を加えるための画期的な知識を得るために設計されました。化膿レンサ球菌の最も一般的な症状である『のどの痛み』を防ぐペニシリンの正確な量はこれまで不明でした。明確な目標が定まったことで、筋肉ではなく皮膚への投与を理想とする、大幅に痛みが少なく、3カ月ごとに投与可能な新しい長時間作用型注射の開発を加速できます」と述べました。

なお、60名の参加者のうち57名が最大5日間の入院と評価、、1週間後と1カ月後の診察を完了し、入院期間中に試験を中止したのはわずか2名でした。マニング氏らは「これは、ほとんどの参加者が試験への参加を許容できたことを示しています」と伝え、今回の研究には参加者が少なかった点を課題として挙げました。

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