退職代行にすがる若者 Z世代の研究者が分析する「チル&ミー」
ゴールデンウイーク(GW)を終えた5月は、退職する若者が増えるとされる。近年では、退職の意思表示や手続きを企業に代行してもらう「退職代行」の利用も増えている。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大で、学生生活の多くをリモート(遠隔)で過ごしてきた若者の行動傾向がある。
金ではなく「ダイヤモンド」
「(Z世代は)コロナ禍で学校生活の多くをリモート授業で過ごした世代です。リアルに人と接する経験が他世代と比べて極めて少ない。学校でも叱られたり、友人とけんかをしたりする経験にも乏しい。優しい子が多い印象ですが、強く言う、言われる構図に耐性がないのです」
Advertisement1990年代後半から2000年代生まれを示す「Z世代」など、若者の価値観や行動特性を長年研究してきた原田曜平・芝浦工業大教授はそう指摘する。
「チル&ミー」――。
マーケティングの観点から「ゆとり世代」「さとり世代」といった世代論を提唱してきた原田さんが表現するZ世代の特徴だ。
「チル(chill)」は争わず、穏やかに過ごしたいという志向を表した。「ミー(me)」はインスタグラムなどの発信型交流サイト(SNS)に触れ、自己アピールと承認欲求が強く、批判を嫌う点を込めた。
この二つが重なることで、波風を立てず、自分のペースを守る行動傾向が際立ってくるという。
「(インスタグラムなどの)『いいね』を介してゆるくつながる一方で、(SNSの一種である)LINE(ライン)のブロックのように、苦手な相手は簡単に切ってしまう文化がある。そんな彼らにとって、上司に直接辞意を伝えることは非常に高いハードル。Z世代の利用者が飛び抜けて多いというわけではないと思うが、退職代行は、その世代のニーズにとてもうまく応えていると感じます」
退職代行に対しては「逃げ癖がつくのではないか」「本来は自分で言うべきことだ」といった批判も根強い。原田さんもそれを認めたうえで、こう語る。
「だからといって『甘えだ』と切り捨てても、根本的な解決にはなりません。いまはレクチャー社会です。上の世代が一方的に叱責するのではなく、背景を理解し、根気強く教えていく姿勢が必要です。Z世代は、自分たちより上の世代のことをほとんど知らない。武勇伝のように語るのではなく、世代について教えることで相互理解を育む機会をつくっていく必要があります」
そのうえでこう続けた。
「高度経済成長期に農村部から都市部へ就職する若者を金の卵と呼びましたが、今のZ世代は少子化も相まって、企業にとってはダイヤモンドほどの価値がある。募集時と実際の仕事内容にそごがあるケースも多い。Z世代だけの問題だけでなく、企業側も改めるべき部分はあるのではないでしょうか」
退職代行「モームリ」を手掛ける退職・転職支援会社「アルバトロス」によると、今年のGW中に600人から退職代行の依頼があり、うち79人は新入社員だったという。【隈元悠太】