「企業がもうけすぎ」 水野和夫氏に聞く実質賃金マイナスの元凶
物価上昇(インフレ)に賃上げが追いつかず、実質賃金の減少が続く日本経済。「資本主義の終焉(しゅうえん)と歴史の危機」などの著書がある経済学者の水野和夫さん(71)は、企業が資金をため込んで「労働者が正当な対価を受け取っていない」ことに原因があると指摘する。日本再生の鍵は「税制にあり」。水野さんに縦横に語ってもらった。
大転換期を迎えるヒトとモノの「価格」の今をリポートする<¥サバイバル 令和の「値段」>。私たちはどんな未来を描けば良いのか。識者3人に聞きます。(全3回)止まらぬインフレと働き手不足 日本を待ち受ける生活維持機能の低下橘玲さんが語る デフレ終結の後に「やさしくない社会」が来る(3月31日午前6時掲載)
「狂った世界に出てきた狂ったトランプ氏」
――日本は、米国主導の国際秩序に大きな影響を受けてきました。
◆まず、米国が世界の秩序を保つ役割を降りたという事実があります。2013年にオバマ大統領(当時)が「米国は世界の警察官ではない」と宣言しました。
すると、翌14年にはロシアがウクライナ南部クリミア半島と東部ドンバス地方へ侵攻し、22年2月には全土への侵攻を開始して現在も戦闘が続いています。
――その国際秩序を、トランプ大統領がさらに崩そうとしています。
◆トランプ氏は第1次政権時に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱しました。
2期目の現在も自国の利益を最優先し、外国製品への関税引き上げ、地球温暖化対策に反する原油・天然ガスの増産を進める考えを強調しています。
トランプ氏の下、米国は世界の警察官だけでなく、円滑な世界経済の「守護役」からも降りてしまった。
地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」や世界保健機関(WHO)からの脱退も表明しています。
国際協調に背を向ける姿勢は鮮明であり、米国は壊れ始めている。建国以来の危機でしょう。それによって世界もおかしくなってきています。
まさにトランプ氏は「狂った世界に出てきた狂った大統領」ではないでしょうか。
――なぜ狂ってしまったのでしょうか?
◆資本主義はもともと、平等な社会に向かう仕組みではなく、富む人と貧しくなる人の「二極化」に向かうものです。
競争で勝った人が、ますます富める社会になる。米国では1980年代から貧富の差が拡大し続けています。
それが行き着いて、狂った世界に登場したのがトランプ氏なのです。
本来はブレーキ役が必要ですが、対抗勢力であるはずの民主党に全く力がない。トランプ氏に対峙(たいじ)する旗印を掲げることさえできていません。
貯蓄増・消費減の背景にある「年金不安」
――日本経済はデフレの時代が終わりを告げています。
◆経済学の観点から言えば、労働生産性の上昇が賃金の上昇につながります。ところが、日本は生産性が上昇傾向にもかかわらず、実質賃金が下がっている。
つまり働いている人が正当な対価を受け取っていない。そこに日本経済の大問題があります。
ただし、今後、物価と賃金がともに上昇する好循環が実現したとしても、もう一つの問題は消えないでしょう。それは将来への不安です。
――どういうことですか。
◆個人金融資産の残高は増え続け、約2200兆円にまで積み上がっています。
問題はその理由です。金融広報中央委員会のアンケート調査によると、貯蓄の理由は「老後の生活資金」が1位です。「年金だけでは不安」だから貯蓄に励む。しかし、結果として消費が減り、景気が低迷するというわけです。
――不安の原因…