アマゾンの未知の遺跡候補地を67カ所発見、AIが変える考古学

アマゾン有数の支流であるネグロ川流域を撮影したLiDAR衛星写真。OpenAIが開催した考古学コンテストの優勝チームは、遺跡調査の候補地として2キロ四方の場所を67カ所特定した。その多くが川辺に位置していた。(PHOTOGRAPH BY MATTHEW HURST, JAXA/SCIENCE PHOTO LIBRARY)

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 南米アマゾンに潜む未知の遺跡を大量の衛星写真やセンサーデータから探す「OpenAI to Z Challenge」コンテストが開催され、8月28日、優勝チームが発表された。優勝した3名のチームは、歴史的に価値ある遺跡が含まれると考えられる2キロ四方の場所を67カ所特定した。それらは実地調査の出発点になりうる。

 広大なアマゾンの密林の奧深くには、無数の考古学遺跡が隠されているかもしれない。1万3000年前に存在していた文明の痕跡は、石器や洞窟壁画という形で残されている。

 しかしアマゾンは9つの国にまたがり、数百という先住民族が暮らす場所だ。実地調査で遺跡を探すには、あまりに広すぎる。そこで研究者に注目されているのが、人工知能(AI)や機械学習などの新技術だ。

 そうした状況のなか、ChatGPTを手がけるOpenAIが開催したのが今回のコンテストだ。エジプト学者のサラ・パーカック氏と、メソアメリカ考古学者のクリス・フィッシャー氏という2人の考古学者が審査員として参加した。(参考記事:「千年以上古いピラミッドのそばに後の時代のミイラ」「謎の古代文明の遺跡、最後の悲劇物語る遺物が続々」

 優勝した「Black Bean」チームは、複数の公開データセットを使ってディープラーニング(深層学習)モデルをトレーニングした。実際に使われたのは、LiDAR(ライダー、光による検知と測距)のリモートセンシングデータ、Google Earthエンジンの衛星写真画像、米航空宇宙局(NASA)のデジタル標高モデルなどだ。

 同チームによると、OpenAIのGPT-4oモデルにアマゾン熱帯雨林の既知の遺跡のパターンを学習させ、ブラジルをはじめとする未調査の地域と比べ、調査候補地となる場所の座標を特定した。

 見つかった場所のほとんどは、水辺に沿うような形に集まっていた。

「常識的に考えても、この結果は妥当です」と話すのは、優勝チームの一員で、現在米メタ社のソフトウェアエンジニアとして働いているヤオ・チャオ氏だ。氏はAIの応用についてより深く知ろうと、休職してコンテストに挑戦した。やはり、古代文明は水の近くに興るものなのだろう。

 チャオ氏によると、数週間ほどで大量の地理データを高速に処理できるので、最初に実地調査を行わなくても、候補地を見つけることができる。優勝チームには、賞金25万ドル(約3700万円)とOpenAI製品のプレミアム使用権が贈られた。(参考記事:「「AI」 人工知能が切り開く科学の未来」

「時間はかなり限られています」

 考古学者にとって、機械学習はまったく新しい道具というわけではない。米アラバマ大学バーミンガム校の考古学者であるパーカック氏は、数十年にわたって行っているエジプトやチュニジアなどの調査に、衛星写真、赤外線画像、LiDAR画像を駆使してきた。LiDARは航空機やドローンに搭載したセンサーからパルス状のレーザー光を発射し、その反射を測定する技術だ。(参考記事:「ベールを脱ぐマヤ」

 氏は、こういった画像技術と、データからパターンを見つけるようにトレーニングした機械学習技術を組み合わせて、既知の遺跡に含まれる未知の集落や墓をたくさん発見してきた。しかし、新しいAIモデルなら、これまでの技術をベースとして、決まった調査対象以外にも活用できるので、まったく新しい調査候補地を見つけることもできるという。

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