特発性心膜炎の診療実態と予後に関する初の全国調査の結果をCirculation Journalへ発表。
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の心臓血管内科の相川裕彦医師、藤野雅史医師(現:Monash大学)、野口暉夫医師らの研究グループは、日本全国の心疾患入院データベース(JROAD-DPC:Japanese Registry of all Cardiac and Vascular Diseases、注1)を用いて、特発性心膜炎の診療実態と予後に関する初の全国調査を行いました。
この研究成果は、2025年3月30日の第89回日本循環器学会学術集会で発表されるとともに、「Circulation Journal」オンライン版に同時掲載されました。
■背景
心膜炎は心臓を包む膜(心膜)に炎症をきたす疾患で、胸痛や心膜液の貯留などを伴います。原因はさまざまですが、その中でも「特発性心膜炎」は最も頻度が高い一方で、感染や自己免疫 性疾患などの明確な原因を持たないものを指します。欧州ではガイドラインが整備され、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やコルヒチンの併用が標準治療とされています(図1)。しかし、日本ではこれまで大規模な実態調査は行われておらず、診療の現状や治療成績についての知見は限られていました。またコルヒチンは保険適応が無く、臨床医が治療方針を選択するうえで大きな制約となっています。
■目的
本研究の目的は、JROAD-DPCデータベースを用いて、特発性心膜炎の患者背景、治療内容、予後の実態を明らかにし、診療や転帰の年次推移を通じて日本における診療の現状と課題を把握することです。
■研究手法
本研究では、2016年4月から2021年3月の5年間にJROAD-DPCデータベースに登録された心膜炎入院症例8,020例のうち、感染性や悪性、自己免疫性疾患など他の原因を除外し、3,963例の特発性心膜炎患者を対象に解析を行いました。年齢、合併症、治療内容(薬剤使用)、院内死亡、再入院などの臨床指標について、年次推移を含む詳細な分析を実施しました。
■成果
患者の高齢化:中央値年齢は62歳から68歳へと統計的に有意に上昇し、65歳以上の割合が年々増加していました。
特発性心膜炎の薬剤使用の現状:特発性心膜炎の第一選択薬であるNSAIDsの使用率は、2020年度で72.6%、コルヒチンは44.3%に増加したものの、同時併用率は22.7%と限定的でした。
特発性心膜炎の予後の変化:院内死亡率は平均1.4%、再入院率は5.7%で、いずれも調査期間中に大きな変化は認められませんでした。入院費用、入院期間は年々増加傾向でした。
特発性心膜炎の予後に関連する因子:多変量解析の結果、高齢およびステロイド使用が院内死亡の有意な危険因子であることが判明しました。一方で、心タンポナーデは有意な関連を示しませんでした。
※図2に記載
■本研究から得られた知見
本研究は、日本における特発性心膜炎の診療実態を初めて全国規模で明らかにしたものです。欧州のガイドラインで推奨されているNSAIDsとコルヒチンの併用治療は、日本でも徐々に使用が増加しているものの、依然として十分に普及しているとはいえない現状が明らかになりました。また、特発性心膜炎の予後も改善していませんでした。こうした背景にはさまざまな要因が考えられますが、本研究で使用したJROAD-DPCデータベースには詳細な臨床情報が含まれていないため、治療選択の背景や重症度などを十分に評価することは困難です。今後、本邦における急性心膜炎の治療をより適切なものとするためには、臨床的な詳細データを収集可能な大規模な前向き研究が必要であると考えられます。
■研究実施期間
代表機関名:国立研究開発法人国立循環器病研究センター代表者名(所属・役職):相川 裕彦(心臓血管内科 心血管集中治療科 専門修練医)
■謝辞
本研究は、一般財団法人 朝日インテック・宮田尚彦医療技術支援財団より支援されました。
■注釈
注1) JROAD-DPC:Japanese Registry of all Cardiac and Vascular DiseasesJROADは、日本循環器学会が実施している全国規模の循環器診療の実態を把握することを目的とした調査であり、診療の現状を数値として可視化するために構築されたデータベースです。提供されるデータは、匿名化加工が施されたDPCデータ(診療情報および診療報酬明細情報)に基づいています。
図1.
図2.
最終更新日:2025年04月01日