米中、関税率115%ポイント引き下げで合意:識者はこうみる

 5月12日、米国と中国は両国の貿易問題を巡り10─11日にスイスのジュネーブで行った閣僚級協議で、相互に発動した関税率を115%ポイント引き下げることで合意したと発表した。写真は米中の国旗のイメージ。3月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 12日 ロイター] - 米国と中国は12日、両国の貿易問題を巡り10─11日にスイスのジュネーブで行った閣僚級協議で、相互に発動した関税率を115%ポイント引き下げることで合意したと発表した。経済・貿易関係に関し協議を継続するメカニズムを構築するとした。

市場関係者に見方を聞いた。

◎ドル/円は一段高の可能性、対EU交渉も注視

<みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>

米中の貿易対立が相互関税の発表された4月2日以前の状態に戻ったことで、ドル/円も同時期以来の水準へ切り返している。投機筋の間で大きく積み上がった円買いポジションの解消には好機と言え、ドルはもう一段の上昇があり得るとみている。

今後のポイントは90日間の関税率引き上げ停止措置の扱いなどだが、同時に欧州連合(EU)との交渉にも警戒が必要だとみている。対EUの貿易赤字は今年、中国を上回る可能性もある規模で、米国が目指す貿易不均衡の是正には最も重要な交渉相手の一つである。

欧州委員会は前週、対米交渉の行方次第で対抗措置を講じる考えを示した。2国間交渉が難しい相手でもあり、協議はややエスカレートしているようにもみえる。どう合意を取り付けるのか注視したい。

◎予想以上、相互関税発表前のドル150円が上値めど

<三井住友銀行 チーフ為替ストラテジスト 鈴木浩史氏>

予想以上の結果だった。対話の枠組みだけ設定する内容にとどまるとみていたが、米中双方が115%関税を引き下げることで合意し、市場のベストシナリオに近いところだ。90日間という期間も大きく、1-2週間の短期間で覆る話ではなく、目先はドル買い/円売りに転じやすい。4月の相互関税発表前はドル150円ちょうど付近で推移していたため、いったんその水準が上値めどとなると考えている。

円買いポジションもたまっていたため150円を超える上昇もあり得るが、中期的には、米国の利下げ観測を剥落させる展開になるかどうかだとみている。実体経済、ファンダメンタルズを見極めていくことになる。

◎株価に追い風、日米協議の早期決着が焦点

<しんきんアセットマネジメント投信 シニアファンド・マネージャー 藤原直樹氏>

具体的な成果が示されたことは、株価にプラスと言える。米株先物の大幅高やドル/円の上昇を受けて、日経平均先物は大幅高で推移している。米国市場でも株価が好反応となれば、あすの東京市場で日経平均は3万8000円を上回ってもおかしくない。

株高に追い風の環境が整ってきている印象だ。高関税を巡る議論をこれ以上長引かせると、いつ再びドル安、米株安、米債券安となってもおかしくない。米国側の交渉姿勢は、ここからは強気ではなく軟化していくのではないか。関税率がマイルドになればインフレ影響は限られ、米連邦準備理事会(FRB)は利下げに動ける。関税収入が徐々に溜まることは、減税の原資にもなる。

もっとも、日本株にとっては、日本政府がこの流れに乗り遅れないかが焦点になる。日米協議が長引くようなら、企業にとって国際競争の面から不利となる。マネーは米国や中国にシフトしかねず、日本株が海外株に対して出遅れるリスクがあり、注意が必要になる。

◎初期反応はプラス、日経3万9000円乗せも

<楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田雅之氏>

米中協議の内容は、数字のインパクトからして初期反応は株式市場にとってプラスで反応しそうだ。為替の議論も上がらなかったという点は、ドル/円相場の円高警戒が薄れ、日本株にとっても好感されやすい。目先の日経平均は3万9000円台まで上昇していく可能性があるとみている。

ただ、注意しなければならないのは、現行の追加関税率で10%を維持し、24%ポイント分を90日間停止する方針なので、まだ話し合うべき項目が多く合意まで時間がかかりそうだ、という点だ。この先の交渉がハードになっていく可能性も意識されるため、株価の上昇基調がどのくらい続くかは現時点では不透明だろう。

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