日本じゃ“禁句”なのに…「日本は核武装せよ」と米保守派エリートが言い始めた“戦略的な理由”(ダイヤモンド・オンライン)
● アメリカの専門家のあいだで 「日本の核武装論」が広がる背景 アメリカの安全保障戦略の専門家のあいだで「日本は核兵器を保有すべきだ」という議論が、静かではあるが着実に広がりつつある。 これまで国際的な核拡散はアメリカにとって絶対的な禁忌であり、アメリカはあらゆる手段を使って核保有国が増加することをいかに抑えるかに腐心してきた。ところが、最近になって徐々に「タブー」でなくなりつつある。 日本などに核武装をさせるべきだという意見は、一部の軍事評論家が唱えていたにすぎず、あくまで少数派だった。それが、国際政治学者、戦略研究者、そして保守派の政策エリートたちにまで広がり始めている。 とくに共和党を中心とする保守的な安全保障コミュニティでは、日本の核武装を「東アジアの安定に不可欠な現実的オプション」として扱うことが増えているのである。 日本の核保有論が勢いを増している背景には、アメリカが抱える構造的限界と、国際秩序そのものの変質がある。 ロシアによる武力侵攻、中国による覇権拡張、中東の混乱という複数の戦略的挑戦が同時に進行しており、アメリカは多面的に軍事力を展開できる余力を失っている。 国内では財政赤字、社会保障費の増大、インフラ崩壊といった「内向きの圧力」が強まり、冷戦期のようなアメリカが世界のどこにでも軍事力を自由に展開できる時代はすでに終わったと見るべきだ。
アメリカ国内では、海外への軍事的関与を縮小すべきだという世論が多数派を形成しつつある。アメリカ議会では共和党支持層を中心に、多少の違いはあるものの、その基本的な考え方については支持が広がっている。 その結果、保守系ストラテジストを中心に、「アメリカはアジアとヨーロッパの安全保障にいかに関与すべきか」という問いに向き合わざるをえなくなり、その答えのひとつとして「日本の核武装論」が浮上している。 ● 保守派専門家が強く推す 「選択的核拡散」という新戦略 アメリカがいま唱え始めているのは、「選択的核拡散(Selective Proliferation)」と呼ばれる新戦略である。 これは、不安定な独裁国家の核保有を断固阻止する一方で、安定した民主国家には核兵器を所有させ、地域の防衛負担を分担させるという発想である。 この考え方を最も強く推しているのは、共和党を中心とした保守派エリート層だ。 彼らは従来の「アメリカが世界を守る」という戦後の発想に限界を見出し、むしろ「責任ある同盟国が自らの地域を守る」体制へ移行すべきだと主張する。その象徴的な論文が、11月19日に米外交誌『フォーリン・アフェアーズ・レポート』デジタル版に掲載された“America’s Allies Should Go Nuclear:Selective Proliferation Will Strengthen the Global Order, Not End It(アメリカ同盟国は核保持に進むべきだ――選択的核拡散は国際秩序を終わらせるどころか、強化するものだ)”である。 https://www.foreignaffairs.com/canada/americas-allies-should-go-nuclear 本論文では「安定した民主国家」として、カナダ、ドイツ、そして日本の3カ国を取り上げ、それぞれが核武装することのアメリカ安全保障の意義を説いている。 とくに日本は、中国の台頭という極めて重大な戦略課題を抱える地域に位置しているため、選択的核拡散の「最重要候補」として扱われている。アメリカ保守派の多くは、日本を「守られる側」から「地域秩序の支柱」へと引き上げることこそが、アジア安定の鍵であると考えはじめているようだ。
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● 中国に根強い 「アメリカ不介入」への期待 日本の核武装論には、もうひとつの深刻な議論が絡んでいる。それは、中国に根強い「アメリカは日本のために核戦争をするつもりなどない」という期待である。 実際、アメリカの国家防衛戦略は近年大きく見直され、「米国本土と西半球の防衛を最優先とする」という原則が打ち出されている。これは東アジアやヨーロッパへの軍事投入を減らし、同盟国により多くの負担を引き受けてもらうことを意味する。 アメリカでは、遠いアジアで大規模な戦争を始めることに対して国民的支持は期待できないと見ており、日本側が抱いている「アメリカは中国の台湾併合を阻止するはずだ」という確信とは、かなり隔たりがある。 この温度差から、「アメリカ不介入」を期待する空気感が中国では根強くあるといわれている。 アメリカが台湾有事への介入に躊躇すればするほど、日本への圧力は増大する一方である。そのとき、日本が独自の抑止力を持たなければ、東アジアの力の均衡は急速に崩れ、地域秩序は一気に中国主導へ傾きかねない。 この悪循環を断ち切るために、日本の核武装が必要だという主張が持ち上がっているのである。 ● 日本の核武装が 変える日米同盟の構造 アメリカは長年、「日本は軍事的に弱いままでよい」という立場を選択してきた。この考えはとくに民主党で根強く、六四天安門事件など特定の時期を除いて、戦後のアメリカは結果として「日本を弱くし、中国を強くする」ことにつながる政策をとってきたと指摘されることも多い。 経済力の強い日本を、軍事的にアメリカに依存させることで、アメリカは日本を“管理”しようとしてきた。また、実際、それはかなり機能してきており、1980年代に日本経済が強大になったとき、アメリカはプラザ合意などでその力を削ぐことに成功している。 だが、中国の台頭と台湾有事の現実化が、この構造を根底から揺さぶっている。戦後の対日・対中政策が結果的に中国の急成長を許した側面が明らかになりつつあり、アメリカ自身が戦略の再調整を迫られている。