草彅剛「すごく感慨深く、大きな縁を感じています」世界で大ヒット!Netflix『新幹線大爆破』制作秘話

草彅剛主演、樋口真嗣監督のNetflix映画『新幹線大爆破』が大ヒットを記録している。4月23日に独占配信が開始されて以来、日本でのランキングは1位、全世界でも非英語映画として2位を記録する好発進をし、その後も人気をキープし続けている。

Netflix映画『新幹線大爆破』独占配信中

映画は1975年(昭和50年)の高倉健主演、佐藤純彌監督の東映映画『新幹線大爆破』(以降、昭和版と呼ぶ)のリブートで、前回は犯人側だった主人公を、鉄道マンの高市に変更。鉄道マンたちの矜持と、一方で謎めいた犯人は誰なのか、その犯行の背景は何かというミステリーの要素も加わった。

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本作では、乗り合わせた乗客の誰が犯人でもおかしくない状況の中で、草彅演じる高市、管制室にいる笠置(斎藤工)らは冷静な判断を求められることになる。一方、前作では高倉健演じる工場主の沖田らが犯人であることは最初に明かされているため、ミステリーという要素は薄かったのだ。

草彅「前作の良いところをいただいて、新しく構築できたのでは」

車掌の高市を演じた草彅剛は、4月21日に行われた配信直前イベントでこう語った。

75年版の高倉健さんには、とても僕はお世話になっていて。すごく感慨深く、大きな縁を感じています。前回は車掌さんはあまり出てこないんですが、もし実際に事件が起きたら一番大変だったのでは、というのを樋口監督が着目してくれました。

リメイクではなくリブートというのは、前作の良いところをいただいて、新しく構築できたのではと思うし、そこに運転士・松本役ののんさんはじめ、共演者のみなさんがいてくれました。

Netflix映画『新幹線大爆破』発車記念イベント(Photo :Ayako Ishizu)

草彅、のん、新人車掌役の細田佳央太らはJR東日本による研修を受けており、実際の乗務員の行動を踏襲している。

同イベントで草彅は、斎藤工が演じた統括指令所長の笠置役をやってみたかったと明かしていたが、この役は昭和版では宇津井健が演じた運転指令長・倉持を踏襲している。新幹線の動きを見せる細長い電光掲示板(通称・屏風)を双眼鏡で見ながら指示を出していくのだが、現在のJR東日本では使われておらず、各自のモニターで管理しているという。しかし、樋口監督は昭和版のこの場面が大好きということで、あえて再現したそうだ。他にも昭和版へのオマージュがいくつもあるので、ぜひ確認してほしい。

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映画は東北新幹線の新青森発、東京行きのはやぶさ60号に爆弾が仕掛けられたという設定だが、とにかく鉄道マニアにも評判がすこぶる良い。樋口監督自身、鉄オタを自任しており、実際の東北新幹線を貸し切っての撮影は、昭和版にはできなかったこと。当時の国鉄が撮影を許可しなかったため、セットとゲリラ撮影で乗り切ったのだ。今回はJR東日本が特別協力し、撮影のために特別に東北新幹線を7往復させており、カーテンを閉め切った貸切列車が走るのを目撃した人からは「あれがそうだったのか」という声も上がっている。

樋口監督が「一番大変だった」撮影とは?

車窓の景色はCGやLEDスクリーンによるもの。窓から暴走する列車を見るマンションの住人たちも、グリーンバックによる合成だというから驚いた。もちろん、今回もミニチュアによる特撮は素晴らしい。しかし、爆破場面と疾走感を同時に成立させるのが一番苦労したという。

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ミニチュアを撮影する際、ハイスピード撮影をするんです。映画では普通1秒間24フレームで撮影しますが、それを例えば3倍とか4倍とかのフレーム数で撮ると、再生した際に全部遅く見えるわけです(※一般的なスローモーションの原理)。

ところが、爆発とかの細かく飛び散る破片は遅くなって見えて欲しくても、走行してる新幹線そのものは速い状態でいないと意味がない。実は一番大変だったのは、新幹線そのものはすごいスピード、止まらないかもしれないっていうようなスピード感を与えることでした。

撮影メイキング:Netflix映画『新幹線大爆破』独占配信中

CGIとミニチュアの使い分けに関しても、「乗客に助かってほしい、というような観客の感情が乗る部分はミニチュアに、止まらない新幹線というようなコントロールできない部分はコンピューターに、という具合にシナリオを振り分けていったんです」と樋口監督が語っていたのが印象的だった。

Netflix映画『新幹線大爆破』VFX解説セミナー。左から、樋口監督、佐藤氏、白石氏(Photo :Ayako Ishizu)


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『シン・ゴジラ』など樋口監督と長年組んでいるVFXスーパーバイザーの佐藤敦紀氏によれば、「ミニチュアによるクライマックスの爆破シーンはセットの準備を含めて1ヶ月くらい、撮影だけでも10日ほどかかりました。それ以前に、車体をどう動かしていくのか、という試算をコンピューターでしてラフを作って、組み立てていくのですが、そこを入れると1年かかっているんです」と、準備に大変な時間がかかっている。

撮影メイキング:Netflix映画『新幹線大爆破』独占配信中

でもミニチュアの爆破場面を、役者さんに見てもらってから演じてもらうことができた。これはとても喜んでもらえて、やった甲斐がありました。(佐藤)

実はミニチュアと言ってはいるが、ここで言っているのは実際の車両の6分の1サイズのもの。メイキング映像も公開されているが、かなり大きいのだ。これを実際に走らせて、衝突や爆破シーンなどを撮るわけだから、一発勝負でもある。

コンポジティング・スーパーバイザーの白石哲也氏(Spade & Co.)は、ミニチュアで撮影されたものをベースにCGを加えていく。

実写で撮影した特撮と、コンピューターによる映像がミックスしていくんですけども、課題が2つありました。樋口監督もおっしゃっていましたが、ミニチュアを使った特撮では迫力を出すためにスローモーションのような撮影をしている。でも、そこで脱線して突き進んでいく新幹線のスピード感を出すためにCGを使っていくというのは、とても難しかった。

2つ目の課題は、その質感の違い。ミニチュアは実際に照明を当てて撮影しています。CGの空間でそれを再現するんですが、ミニチュアサイズのライティングというのは現実とは違うわけです。実物のリアルなサイズ感でCGでは調整していくんですが、その微妙な調整が意外と大変でした。(白石)

なお印象的なハイテク爆弾のデザインをしたのは、『シン・ゴジラ』『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明。アニメーター時代からメカデザインの名手として知られた庵野らしさが感じられるので、お見逃しなく。

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「草彅剛は、高倉健になる男」

観ている間は暴走する新幹線の迫力と、草彅たちの演技に気圧されて気づかなかったが、よくよく考えるとあの犯人がどうやって仕掛けたのだろう? と、ちょっと謎が残る。しかし、草彅剛が犯人と対峙する際の迫真の演技は、これぞ現代日本を代表する俳優だと唸らされた。「草彅剛は高倉健になる男」と言ったのは演出家つかこうへいだが、感情を抑えに抑えて最後に爆発するという高倉健型の演技を、今回の草彅も見せてくれる。

撮影メイキング:Netflix映画『新幹線大爆破』独占配信中

余談だが、昭和版は高倉を初め、宇津井健、千葉真一(運転士・青木)、山本圭(元過激派・古賀)ら主要キャストがもう皆、亡くなっていることに50年の月日を感じる。なお、同年に公開された『ジョーズ』のリチャード・ドレイファスはまだ健在だ。

当時大流行したパニック映画の金字塔でもあると同時に、ある種のルサンチマン(遺恨、復讐感情)を感じさせた昭和版。犯人は日本の高度成長から取り残された男たちであり、暴走する新幹線はある意味で権威の象徴でもあった。国鉄=日本国有鉄道だったのだから。当時の国鉄が協力しなかったのもよくわかる。あの頃、東京では本当に過激派による爆破事件が相次いでいたので、荒唐無稽とは言い切れないものがあったのだ。

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一方、令和版は観客側の背景も描かれており、SNSで配信して身代金を集めようというアイディアなどまさに現代的で、新幹線は個人の欲望が暴走する社会の象徴とも思える。そしてその事件を解決するのは普段、縁の下の力持ちとして人知れず活躍している人々であり、鉄道マンたちはその象徴だ。たとえ顔を見たとしても、乗務員の名前を覚えている人は少ないだろう。その象徴である高市を演じた草彅剛はある意味で無名性を保ち続けるスターであり、彼にしか演じられなかったと言える。

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ちなみに保線担当の新庄を演じた田中要次は、俳優になる前は実際に国鉄、そしてJR東海で保線員をしていたというホンモノだ。樋口真嗣作品は、『シン・ゴジラ』もそうだが無名の者たちが魔物と対峙して戦う群像劇が真骨頂だということがよくわかる。是非とも令和版、昭和版ともに鑑賞して味わってもらいたい。

Netflix映画『新幹線大爆破』発車記念イベント(Photo :Ayako Ishizu)

取材・文:石津文子

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