ゼレンスキー氏、アメリカの支援失う危険あるとウクライナ国民に演説 ホワイトハウスの和平案めぐり

画像提供, Zelensky/Telegram

画像説明, ゼレンスキー大統領は、ウクライナの「尊厳と自由の日」を記念した演説で国民に向けて、ウクライナが直面する厳しい状況を説明した(21日、キーウ)

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は21日、ロシアとの戦争についてアメリカ政府が示している和平案をめぐり、ウクライナがアメリカの支援を失う危険があると国民に警告した。この案についてドナルド・トランプ米大統領は同日、ゼレンスキー氏がそれを「気に入る必要がある」と述べた。

ゼレンスキー氏は首都キーウの大統領府を背に、約10分間にわたり国民に向けて演説し、ウクライナが「非常に難しい選択に直面するかもしれない。尊厳を失うか、重要なパートナーを失うかという選択だ」と、「今日は私たちの歴史の中で最も困難な瞬間の一つだ」と述べた。

ゼレンスキー氏は、「我々を弱体化させ、分断させるための多大な圧力」にウクライナは直面することになると国民に警告し、「敵は眠っていない」と付け加えた。

そのうえで、国民に団結を呼びかるとともに、ウクライナとしての「国益を考慮しなければならない」と強調した。

「私たちは大声で声明を発していない」と大統領は続け、「私たちは冷静に、アメリカやすべてのパートナーと協力していく。主要パートナーと、解決策を建設的に探して行く。(中略)私は主張し、説得し、代案を提示していく」と述べた。また、「ひとつ確かなことがある。私たちは敵が『ウクライナは平和を望んでいない、ウクライナは交渉を妨害している、外交の用意ができていないのはウクライナの方だ』などという口実を与えない。そんなことは起きない」と強調した。

ゼレスキー氏はさらに、「この計画のあらゆる要点のうち、ウクライナ人の尊厳と自由というこの二つが決して無視されないよう、私は闘う。なぜなら、私たちの主権と独立、国土、国民、そしてウクライナの将来が、この二つにかかっているからだ」と強調した。

「私たちは、結果として戦争が終わるように全力を尽くすだろうし、そうしなければならない。しかし、ウクライナは終わらず、ヨーロッパは終わらず、世界平和も終わらない」

大統領は、ウクライナは「今日も土曜日も日曜日も、来週も毎日、必要なだけいつまでも」迅速に取り組むとしたほか、「来週はとても厳しいものになる。いろいろなことが起きる」と述べ、「今まで以上に私たちは団結する必要がある。私たちの故郷に、尊厳ある平和が訪れるように」と、国民に向けて強調した。

大統領はまた、「欧州各国とも話したばかりだ」と述べ、欧州諸国は「ロシアはどこか遠くにいるのではなく、EU(欧州連合)の境界のすぐ隣にいて、快適な欧州の暮らしとプーチンの計画の間にある唯一の盾が、ウクライナなのだと完全に理解している」と主張。そうした「欧州の友人たちを、私たちは頼りにしている」と話した。

広く流出しているアメリカの和平案には、ウクライナがかつて拒否した内容が含まれている。ウクライナが統治する東部地域の割譲、軍の規模の大幅削減、北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないという誓約などを、アメリカはあらためて提案に盛り込んだ。

こうした条項は、2022年2月にウクライナ全面侵攻を開始したロシアにとって極めて有利な、ロシア寄りの内容と受け止められている。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アメリカによる計画が和平合意の「基盤」になり得ると発言している。

プーチン氏は21日の安全保障閣僚会議で、ロシアはアメリカの提案を受け取ったものの、その詳細はクレムリン(ロシア大統領府)として協議したものではないと話した。

また、ロシアには「柔軟性を示す」用意がある一方、戦闘を続ける準備もできていると述べた。

プーチン氏は20日、ロシア軍の「西方」集団司令部を訪れ、戦争継続の決意を示した。

軍の迷彩服を着たプーチン氏は軍司令官を前に、「我々には任務と目標がある」、「何より重要なのは、特別軍事作戦の目的を無条件に達成することだ」と強調した。

ウクライナの戦場では、ロシア兵が多数、死傷していると言われている。

画像提供, EPA/Shutterstock

画像説明, 20日にロシア軍の「西方」集団司令部を訪れたプーチン大統領

ドナルド・トランプ米大統領は同日、「和平を手にする方法があると思う」として、ゼレンスキー氏はこの計画を「承認しなくてはならない」と発言。そうしなければ、ウクライナとロシアは戦闘を続けることになると述べた。

トランプ氏はホワイトハウスで、このままではウクライナが「短期間」で、ロシア相手にさらに領土を失うことになると警告。アメリカの感謝祭にあたる11月27日まで、ウクライナに猶予を与えるのが「適切」だが、状況が「順調なら」その期限を延長するかもしれないとも述べた。

ウクライナがロシアの空爆を迎撃するには、アメリカ製の先進兵器や防空システムのほか、アメリカ政府が提供する情報が欠かせない。

ゼレンスキー氏は同日、キア・スターマー英首相、エマニュエル・マクロン仏大統領、フリードリヒ・メルツ独首相と電話で会談。各国の継続的な支援を確認したと明らかにした。

これについてスターマー首相は21日夜、「今度こそ公正で永続的な平和を一気に確立する」ことを、ウクライナの同盟諸国は今も重視していると述べた。

南アフリカで22日に始まる主要20カ国(G20)サミットを前に、スターマー首相は自分と各国首脳が「現在の提案について話し合い、トランプ大統領の和平推進を支持しながら、次の交渉段階に向けてこの計画をどう強化できるか、方法を検討する」と述べた。

トランプ氏は、南アフリカで白人が迫害されているという、広く否定されている言い分を理由に、G20に欠席する見通し。

ゼレンスキー氏はこのほか、J・D・ヴァンス米副大統領やダン・ドリスコル陸軍長官と「ほぼ1時間」話したと述べ、ウクライナはトランプ氏の戦争終結への努力を「常に尊重してきた」と強調した。

28項目からなるアメリカの和平案は、ロシアがウクライナ南東部で小規模な領土を獲得したと主張する中で浮上した。この間、ゼレンスキー氏は国内で、側近の関与が取りざたされる1億ドル規模の汚職スキャンダルで、閣僚2人が辞任するという事態に直面している。

ホワイトハウスは、和平案はスティーヴ・ウィトコフ米特使とロシア側のキリル・ドミトリエフ特使による会談を経てまとまったもので、ウクライナが提案の起草から排除されたという批判を否定している。

匿名の米高官はBBCがアメリカで提携するCBSニュースに対し、この計画はウクライナの国家安全保障責任者ルステム・ウメロフ前国防相との協議後、「直ちに」作成されたもので、ウメロフ氏はその大部分に同意していると話した。

和平案をゼレンスキー氏に提示する前に、ウメロフ氏がいくつかの修正を加えたとされる。

リークされた草案には、ウクライナ軍が現在統治している東部ドネツク州の一部から撤退し、ドネツクと隣接するルハンスク州、さらに2014年にロシアが併合した南部クリミア半島でのロシア支配を認めることなどが、条件として含まれる。

和平案にはさらに、ウクライナ南部のヘルソン州とザポリッジャ州の国境を現在の戦線に沿って凍結することも含まれる。両地域は部分的にロシアに占領されている。

アメリカ案はこのほか、ウクライナ軍の人員を60万人に制限し、欧州の戦闘機を隣国ポーランドに配備することを定めている。

ウクライナ政府には「信頼できる安全保障の保証」が与えられるとあるものの、詳細は示されていない。文書には、ロシアは近隣諸国に侵攻せず、NATOもこれ以上拡大しない「ものとされる」と書かれている。

和平案はさらに、制裁解除や主要国グループへの再加盟を通じてロシアが再び「世界経済に再統合」されると示す。この場合、現在のG7はG8に戻ることを意味する。

ロシア占領下と自由地域に住むウクライナ人はそれぞれ、アメリカ案に反発した。

首都キーウでは、ウクライナ兵だった夫を亡くした女性がBBCに対して、「これは和平案ではなく、戦争を続けるための計画だ」と話した。

ウクライナ占領地域の一人はBBCに、「ここでは、ウクライナは私たちのことなどもう忘れているというプロパガンダが、ひっきりなしに続く。それでも私は正気を保とうとしている。(ウクライナ政府は)これに署名しないでほしい」と話した。

ロシアは現在、ウクライナ領土の約20%を支配している。ロシア軍は、甚大な損失が報告されているにもかかわらず、長大な前線に沿ってゆっくりと前進を続けている。

関連記事: