「ノーベル賞科学者」が挑んだ「究極の謎」!「地球の生命の起源」の謎を解く鍵はなんと「月」にある!?
『生命の起源を問う 地球生命の始まり』 第2章 03
2025年7月17日ブルーバックスより『生命の起源を問う 地球生命の始まり』が上梓された。
本書は、科学に興味をもつ者にとって、永遠の問いの一つである、「生命とは何か」「生命の起源はどこにあるのか」の本質に迫る企画である。
著者は、東京科学大学の教授であり地球生命研究所の所長、関根康人氏。
土星の衛星タイタンの大気の起源、エンセラダスの地下海に生命が存在しうる環境があることを明らかにするなど、アストロバイオロジーの世界的な第一人者である。
46億年前の地球で何が起きたのか? 生命の本質的な定義とは何か? 生命が誕生する二つの可能性などを検証していきながら、著者の考える、生命誕生のシナリオを一つの「解」として提示する。
我々とは何か、生命とは何か、を考えさせられる一冊。
ブルーバックス・ウェブサイトにて《プロローグ》から《第二章 地球システムの作り方》までを集中連載にて特別公開。
*本記事は、『生命の起源を問う 地球生命の始まり』(ブルーバックス)を再構成・再編集してお送りします。
「生命の起源」の大看板
アポロ計画をプロジェクト全体でみれば、科学はあくまで副次的なものに過ぎなかった。しかし、副次的とはいえ、未曾有の国家プロジェクトではある。そうである以上、当代一流の科学者たちが集められ、このプロジェクトが遂行された際に得られる第一級の科学とは何かということが事前にしきりに議論された。
アメリカ政府からすれば、このあまりに政治色の強いモノクロトーンのプロジェクトに、科学という彩りを加えたかったに違いなく、科学者側としては、このまたとない機会を最大限利用して、科学史に自らの名前を残そうとする野望があり、両者の思惑は結果として一致した。
アポロ計画における、この科学の中心となったのは、ハロルド・ユーリーである。
本書を手に取られる方なら、ユーリー=ミラーの実験のユーリーといえば、ピンと来られる方も多いかもしれない。
ユーリーは、重水素の発見によって、1934年にノーベル化学賞に輝いている。放射性ウランの濃縮方法を開発し、いわゆる「マンハッタン計画」にも加わり、原子爆弾の完成に重要な役割を果たした。彼にとってアポロ計画は、「マンハッタン計画」に続く、国家プロジェクトであった。
ユーリーは、その研究者人生の後半において、太陽系や地球の起源に興味を広げていた。
ユーリー=ミラーの実験は、彼が研究を太陽系の起源に広げつつある最中、主宰する研究室の大学院生だったスタンリー・ミラーによって行われたものである。ミラーは、ユーリーが想定する原始の地球大気であるメタンや水素、水蒸気、アンモニアを含むガスに、雷を模擬した放電を起こす実験を行った。その結果、アミノ酸など生命の材料となる生体関連分子が生成することを実証したのである。1953年のことであった。
ユーリー=ミラーの実験は、生命の起源の研究史における金字塔の一つといわれる。それ以前には、生命の材料となる物質が、単純な大気を構成する分子からできると思われておらず、仮にそうだったとしても、生体関連分子ができるには地質学的な時間がかかるだろうと思われていた。こういった先入観を払拭(ふっしょく)し、ごく簡単な装置で、短時間で生体関連分子ができることを実証した意義は大きい。
実はユーリーも、右のような先入観をもっており、ミラーにどういう化合物ができそうかを数値計算によって予測してみなさいという課題を与えていた。大学院生のミラーには、右のような先入観はない。彼は、簡単な装置を用いた実験によって、これを実証してしまったのである。
そのユーリーであるが、アポロ計画における科学の大看板として、大胆にも「生命の起源」を掲げた。
しかし、なぜアポロ計画の月面探査が、生命の起源に関係するのであろうか。
それを説明しようとすれば、まずは当時、地球と月がどうできたと思われていたのかというところから語らねばならない。
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【初回を読む】<【衝撃の新説】生命はどこから来たのか…地球46億年の「循環」が解き明かす謎!>
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