トランプ氏の関税政策、不透明性こそが要点か-想定される複数の目的

米国への輸入品全てに一律の関税を導入する計画を掲げるトランプ次期大統領が、対象範囲限定の検討を巡る米紙ワシントン・ポストの報道を否定したことで、政権発足後に実際に講じられる政策への不透明感が広がった。

  そして、こうした不透明性こそが重要なポイントだと言えるかもしれない。

  トランプ氏と同氏のチームがどのような関税措置を打ち出すつもりなのか明確にしていないことで、市場や企業、貿易相手国は臆測するしかなく、6日の同紙報道で疑念は深まった。

  関税について全ての国に適用されるが、国家および経済安全保障上の懸念がある重要輸入品のみを対象とすることを側近が検討していると同紙が伝えたのに対し、トランプ氏は自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に、「私の関税政策が縮小されると誤って報じている。それは間違いだ」と投稿した。

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  ただ、何が正しいのかは結局、明確でない。

  トランプ氏は大統領選で全ての国からの輸入品への10-20%の一律関税と中国からの輸入品への最高60%の関税賦課を公約。当選後には、10%の対中追加関税に加え、メキシコとカナダからの輸入品への25%関税賦課の可能性を表明して再び市場に衝撃を与えた。

  次期政権のチームが計画をまとめたのかどうかは不透明なままだが、トランプ氏が包括的な関税政策を打ち出す用意を進めているのはほぼ確実だ。同氏は関税について、歳入増や米製造業の復興をもたらし、貿易相手国を自分の優先課題に従わせる手段の一つと見なしている。

  トランプ政権1期目で米国の代表として主要7カ国(G7)や主要20カ国・地域(G20)の会合に参加し、現在は法律事務所スクワイヤ・パットン・ボグズでパートナーを務めるエベレット・アイゼンスタット氏は、トランプ氏が過去数週間のSNSへの投稿で、関税が自身の経済政策の重点施策の一つであるとあらためて表明したことに言及し、「これは単に取引目的ではないと見受けられる」と指摘した。

  その上で、「関税には複数の目的があると考えられ、彼も複数の目的を意図していると想定される」とし、「次期大統領が何をしたいのか知るためには、彼に尋ねなければ分からないということを今回再確認することになった」と話した。

  直近に限っても、トランプ氏は今年末に期限切れとなる減税措置の延長に関税収入を充当し、接客業のチップ収入への課税全廃も実現すると表明。バイデン大統領が日本製鉄による買収阻止を発表したUSスチールを巡っても、関税措置で再活性化につなげるとの考えを示した。

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  自由貿易主義者にとって残された希望があるとすれば、トランプ氏が関税の脅しを実行することができるのかどうかという点だろう。大掛かりな包括的政策を実施するに当たって予測される困難が、側近による代替案検討の一因かもしれない。

  実際、トランプ政権1期目と同様に関税は法廷で争われると予想され、関税収入を減税の財源とする案には強硬な自由貿易派の共和党議員からも反対の声が上がる可能性がある。また、関税賦課はインフレ加速や米国内総生産(GDP)の伸び押し下げ、貿易相手国の報復関税を招く恐れがある。

  また、輸入品の値上がりにもつながると考えられるものの、保守系シンクタンク、アメリカン・コンパスの創設者兼チーフエコノミストのオレン・キャス氏は昨年11月のPBSとのインタビューで、「米国の物品購入が一段と魅力的になることを意味する」と語るなど、こうした面でトランプ氏の政策を擁護する考えもある。

原題:Trump Keeps His Negotiating Powder Dry With Tariff Turmoil(抜粋)

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