「バッグにぬい」なぜ増えた? 流行のファッションアイテムでさりげなく伝える「好き」
ぬいぐるみがブームだ。道行く人のカバンを眺めると、スクールバッグからブランドものまで様々なバッグにつけている人がなんと多いことか。なぜ流行しているのか、その気持ちを聞いてみた。
大きなものを一つだけか、どっさりか
スクールバッグにぬいぐるみをつけた修学旅行生東京・渋谷でぬいぐるみをバッグにつけている人に声を掛けた。
北海道から修学旅行でやって来た高校2年生の女子4人組は、スクールバッグやリュックにどっさりとぬいぐるみをつけていた。
ディズニーの「リロ&スティッチ」を中心に青系にしたり、サンリオのキティちゃんとウサギのキャラクター「エスターバニー」などでピンクでまとめたり。「キャラクターのかぶりはあまり気にならないけど、色は気にするかな」。バッグと全体の色のコーディネートを考えて、ぬいぐるみを選ぶそうだ。
22歳の会社員の2人組は、「ミュウミュウ」や「ルイ・ヴィトン」のバッグに大きめのぬいぐるみを一つだけ。人気イラストレーター・mikkoさんのキャラクターに、中国発「ポップマート」の「ラブブ」。どちらも話題のぬいぐるみだ。「バッグに大きめのぬいぐるみをつけるのがはやっているので」つけたという。
海外から来日した人にもぬいぐるみは人気だった。フランスからの23歳の留学生は、青い上着にあわせて「ちいかわ」の青い耳のキャラクター「ハチワレ」をつけていた。「ファッションの色にあわせてつける。お気に入りのぬいぐるみをつけると気持ちが上がる」と話す。
「推し活」全開だったのは、中国から来日した34歳の女性だ。K―POPグループ「ZEROBASEONE」のキャラクター「zeroni」をつけ、透明なバッグに並べていた。「イベントに来るので推しを入れて来ました」。透明で推しをアピールできるバッグは「痛バッグ」とも呼ばれている。
推しを見せる「痛バッグ」写真撮影に応じてくれたのはほぼ女性だったが、男性でもカバンや小物につける人をちらほら見かけた。
つける理由2パターン「推し活」「ファッション」
若者マーケティングを行っている「SHIBUYA109 lab.」所長の長田麻衣さんによると、バッグにぬいぐるみをつけて楽しむ若者は、2023年後半ごろから増えたという。
長田さんたちはZ世代と呼ばれる15歳から24歳までを対象に、アンケートやインタビューなどを実施して「Z世代のぬい活に関する実態調査」を今年2月に発表した。
「ぬい活」の中で最も多かったのは「バッグにつける」で59・4%。長田さんによると「バッグにぬい」にも2パターンがあるという。
一つは「推し活の一環としてつけて楽しむ」。自分の好きな公式キャラクターやアイドルにちなむものなど「推し」を連れ出す楽しみ方だ。
もう一つは「ファッションの一部としてぬいを取り入れて楽しむ」。エスターバニーやラブブなどキャラクターの人気が高まり、高級ブランドとのコラボやインフルエンサーが拡散したことなどから、ぬいぐるみが流行アイテムになった。「自分をデコる気分でぬいをつける」。そんなファッションとしてのぬいぐるみを楽しむ人が増えているという。
「ぬい活」調査では、SNSで「自撮り」代わりに、ぬいぐるみを撮る人も多いことがわかった。
「お守りのような存在」
「友達と写真を撮る際に『ぬい』だけ写すことがある」について「そう思う」と答えた人が63・5%。「自分の顔が写っている写真や動画を気軽にSNSに投稿できる」については「そう思わない」と答えた人が65・5%だった。さりげなく自分の「好き」をぬいぐるみで伝える。「それがコミュニケーションを生むことにつながっています」と長田さん。
もらいもののぬいぐるみをスクールバッグに(東京・渋谷で)では、Z世代にとってぬいぐるみはどんな存在なのだろう。調査で「ぬいを所持することはお守りを所持するような感覚だ」という項目には70・3%が「そう思う」と答えている。インタビューでは「一緒にいて気分が上がる」「不安な時に触るだけで安心できる」といった声もあった。単なるアクセサリーではなく、癒やしを与えてくれたり、気持ちを上げてくれたりするもののようなのだ。
長田さんによると、ふわふわとかわいらしいぬいぐるみは、好きなものをさりげなく表明するのに向いているという。周囲の調和を乱さずに、さりげなく。そんなZ世代の気持ちもぬいぐるみには込められているようだ。