北極上空の「極渦」に異変、12月の北半球は寒波と大雪か
マサチューセッツ州ボストンで寒さに耐えながら通勤する人物=2024年1月/Craig F. Walker/The Boston Globe via Getty Images/FILE
(CNN) 北極のはるか上空にある成層圏で異変が起きている。ここ10日間ほどの変化が来月、北半球各地に寒波や大雪をもたらすと予想される。
米国の一部地域は今月、季節外れの記録的な暑さに見舞われたが、これから急激に冷え込むことになりそうだ。
毎年秋になると、成層圏には「極渦(きょくうず)」が発達し、北極圏上空の非常に冷たい空気を壁のように閉じ込める役割を果たす。極渦が弱まって崩れると、寒気は中緯度の米本土や欧州、アジアまで南下する。
北極上空の成層圏では現在、気温が急激に上昇している。米海洋大気局(NOAA)の気象学者エイミー・H・バトラー氏によると、「成層圏突然昇温(SSW)」と呼ばれるこの現象では、極渦が弱まり、さらには逆回転することもある。
SSWがなぜ起きるのかは不明だが、この現象によって米国が猛烈な「極渦」寒波に襲われることがある。
こまの回転が遅くなってコースから外れるように、極渦が弱くなり南へ蛇行するため、北米や欧州、アジアで今月末にかけて影響が出始めるかもしれない。
極渦がこれほど早い時期に大きく崩れたことは、気象衛星による観測が始まってから一度もなかった。
米マサチューセッツ工科大学の気象学者ジュダ・コーエン氏も、今回のSSWが異例なのはこの時期に起きているからだと指摘した。11月にこの規模のSSWが報告された例は、過去にほぼないという。
まだ大寒波が襲来すると確定したわけではないが、専門家らによれば今後1カ月程度、世界の人口が集中する中緯度帯で、例年より気温が低くなる可能性がある。
米ウィスコンシン大学マディソン校の気象学者、アンドレア・ロペスラング氏は、極渦がいったん崩れると、回復までに1カ月かそれ以上かかることもあると説明した。
ただし極渦がどこに寒波をもたらすかを予想するのはさらに難しく、今のところ各地の気温予報には十分に反映されていない。
ロペスラング氏は「北半球の各地で嵐が活発化して進路がずれ、寒波が増えるだろう」との見方を示した。
バトラー、ロペスラング両氏は、極渦の変化を正確に予想できれば、7~10日間の天気予報の精度が上がると指摘する。
ロペスラング氏は、「成層圏の極渦は地表から何十キロも上にあるが、時に操り人形の糸のように、大気力学と熱力学で説明される目に見えない糸で地表の天気とつながっている」と語った。
同氏によると、過去にも冬の初めに極渦が変化した年は、米国で12月の気温が低く、雪が多かった例がある。今回のような変化が起きるとアラスカ州上空に暖かい高気圧の縁ができ、東に向かうジェット気流に溝(トラフ)が生じやすくなる。この溝に沿って、米中部や東部の一部に寒気や雪雲が流れ込む。
極渦の変化はこのように影響が大きいにもかかわらず、同氏によれば最近、成層圏を観測する手段が減り始めている。
成層圏を観測し、SSWについて予想を立てるには人工衛星が極めて重要な役割を果たす。しかし衛星が老朽化し、NOAAがデータ収集にかかわる予算や計画を決定するなかで、衛星からのデータは一部途絶えつつあるという。
ロペスラング氏は、最近の観測で極軌道衛星からのデータが一部欠けたことを例に挙げ、「こういう現象を観測する唯一の手段は人工衛星のデータだ」と強調した。