ソニーのデジカメα9、「酷評」越えキヤノン・ニコンに迫る
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2024年夏に開催された、パリ五輪。4年に1度の夏の祭典は、競技外でも最新鋭の機器が争う熱戦の場となる。スポーツフォトグラファーが使う報道用カメラではキヤノンとニコンの2強状態が長く続いた。2社が会場内で修理や相談などにあたるサービスデポを設けてきたが、パリ五輪では様相が違った。ソニーが悲願だった2強と同規模のデポを会場内に構えたのだ。
ソニーはかつて、プロ向けのプレーヤーとは目されていなかった。コンパクトデジカメやミラーレス一眼カメラ「α」を手掛けていたが、「基本的にはハイアマチュア向けだった」(現在αを率いる大島正昭イメージングエンタテインメント事業部長)。
風景を撮影する一部のプロフォトグラファーがαを使い出したことを受け、初めてプロを意識して開発したのが、17年に発売した「α9」。最後発からのスタートだった。
プロの声も開発に生かし、満を持して出したα9だったが、待っていたのは「すごい酷評」(大島氏)。撮影前の準備や撮影後の送信や編集などへの不満が相次いだ。ただ逆に言えば「撮影したイメージ自体は及第点」(同)とも言えた。手応えも課題も感じた。
そもそも、フォトグラファーがメーカーを切り替えるハードルは、想像以上に高い。カメラそのものが高価と言うだけでなく、複数そろえるレンズはカメラ以上に高いものもある。機材とカメラを一通りそろえると、数百万円かかるのもざらだ。使い勝手も異なる。規格が異なるレンズを捨ててまでメーカーを切り替えるのは「よほどのメリットを感じないとできない」とフォトグラファーは口をそろえる。
ソニーは大規模な会議やスポーツイベントなどで、必死にプロに近づき続けた。17年8月にロンドンで開かれた世界陸上。キヤノンやニコンが従来通り競技場にデポを出す一方、ソニーが拠点を構えたのは最寄り駅と競技場の間にあるホテルの一室だ。外に幟(のぼり)を立て、他社製カメラの掃除も無料で請け負うというポストカードを配ってフォトグラファーを呼び込んだ。
開発担当だった大島氏はトレーニングを受けて客前に立ち、こうしてつくったつながりからフィードバックを受けて開発に回すという取り組みを続けた。さらに自ら購入したチケットで会場内に入り、望遠性能の高い機種でフォトグラファーの動きを追った。「あれだけ人を集めた会場でフォトグラファーの動きを追っていたのは、(自分ともう1人のソニー関係者の)2人だけだった」と笑う。
五輪についてソニーは詳細を明かさない。18年の平昌五輪はロンドンの世界陸上と同様場外で、21年の東京五輪は会場内だったものの2強よりは小さいサイズだったもよう。それが24年のパリ五輪では2強と並ぶ規模にまで成長した。プロに選ばれている証しとも言え、五輪に集まった1600人のフォトグラファーのうち3分の1強にあたる600人がソニーのカメラを使っていたようだ。
生きたのが、α9発売当初から指摘されていた撮影前後の領域の進化だ。ソニーが長く培ってきた通信技術を生かし、その場で撮影データを転送できる「データトランスミッター」が評価を高めた。ワークフロー全体の改善につながり、従前から積み重ねてきた改善と掛け合わせてαを選ぶフォトグラファーを一気に増やした。
ソニーは報道分野の撮影も、多くの人の心を動かすエンターテインメントの一種と位置づけている。「フォトグラファーというクリエーターとの共創が生きている」(大島氏)。スポーツだけではない。24年7月、米大統領選挙戦で演説中にドナルド・トランプ氏が銃撃を受け負傷した。全世界が注目したこの写真の撮影に使われたカメラも、ソニーのαとされる。スポーツでも政治や社会的な事件でも、決定的な瞬間を逃さない性能でフォトグラファーに愛されている。
ソニーグループはエレクトロニクスを祖業とし、トランジスタラジオやウォークマン、トリニトロンテレビ、ハンディカムを代表とするエレキ商品が成長をけん引してきた。
テレビは中韓勢との競争激化による価格低下を受け、2004年からの10年間で8000億円の事業赤字を計上。全社の利益を圧迫する要因となった。構造改革を何度も繰り返す悪循環からやっと脱し、足元では規模を追わず高級機種に限定することで収益を安定させた。
ソニーグループCEOの吉田憲一郎会長は、20世紀のソニーを「感動を届ける」側だったと説明する。CDやウォークマンに代表される、消費者に近い機器を通じ、感動を届けてきた。対する21世紀は「感動を創ることに貢献する」。より上流であるクリエーターに近づき、ゲームや映画、音楽、アニメなどコンテンツ制作に近いところで存在感を示す。それを支えるのが、カメラなどのハードだ。
ソニーグループのエンタテインメント・テクノロジー&サービスを展開するのは、事業会社のソニーだ。槙公雄社長は「クリエーターの発想をもっともっと引き上げていくテクノロジーを開発するのが目指すところ」と説明する。
クリエーターとともに新しいエンタメ作りを目指す。その上で、スポーツをリアルタイムで可視化してキャラクターの動きを当てはめるなど新規領域を広げており、「狭いカテゴリーの中に閉じないようにしていきたかった」とエレクトロニクスの名前から離れた理由を説明する。
(日経ビジネス 岩戸寿)
[日経ビジネス電子版 2024年12月26日の記事を再構成]
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