銀河の中心にある「超巨大ブラックホール」、それほど大きくなかったかもしれない説
ほぼすべての銀河の中心には、超巨大ブラックホール(超大質量ブラックホール)が存在すると考えられています。その質量は太陽質量の100万倍から数百億倍にもなるそう。
今回の新発見は、その観測結果を完全に否定するものではありませんが、これまで考えられていたほど、ブラックホールの質量が大きくない可能性を示唆しています。
想定サイズの1/10の可能性あり
チリにある超大型望遠鏡「VLT」を用いて、天体物理学者たちは、初期銀河のブラックホールが理論モデルの予測よりも10倍も小さいことを示す証拠を発見しました。
もし、他の銀河でも同様の傾向が見つかれば、私たちがこれまで考えていた以上に、初期宇宙のダイナミクスについて「見えていない」部分が多いことになるでしょう。この研究は『Astronomy and Astrophysics』誌に掲載予定で、現在は論文共有サイトarXivで公開されています。
ビッグバン直後の非常に若い銀河の中に、すでに完全に成長した超大質量ブラックホールが多数見つかっているのは、以前から不思議でした。私たちの研究結果は、これまで初期宇宙でブラックホールの質量を測定するために使われていた手法が、実はあまり信頼できるものではなかった可能性を示しています。
と、論文共著者でサウサンプトン大学の天文学者、Seb Hoenig氏は述べています。
ガスと塵に覆われたブラックホール
研究チームは、宇宙の初期に形成されたと考えられる非常に明るく遠方のクエーサーに望遠鏡を向けました。クエーサーとは、超大質量ブラックホールが周囲の物質を大量に吸い込む際に、強烈な光を放出することで現れる天体です。最近の技術的進歩により、ブラックホールの重力が周囲の物質をどのように形作っているかを、これまでになく鮮明に観測することが可能になりました。
観測の結果、ブラックホールの周囲で厚い塵とガスが渦を巻いていることが判明。そのガスは驚くべき速度でブラックホールに吸い込まれていましたが、同時に強烈なガスの噴出も引き起こしていたと言います。実際には、ブラックホールの周囲のガスの約80%が「吸い込まれる」のではなく「吹き出して」いたと、ドイツのマックス・プランク宇宙物理学研究所の天体物理学者で論文共著者の清水太郎氏は述べています。
何も知らない観測者から見ると、この現象によってブラックホールが実際よりも大きく見えてしまう可能性があるとHoenig氏は説明しています。
まるで宇宙のドライヤーを最大出力で動かしているようなものです。その強烈な放射が、近づくものをすべて吹き飛ばしてしまうのです。
Hoenig氏の言葉を裏付けるように、データを詳しく分析したところ、この超大質量ブラックホールの質量は太陽の約8億倍であることがわかりました。これは依然として巨大ではあるものの、理論モデルが予測していた値の約10分の1に過ぎません。
初期宇宙を理解するのは難しい
天文学は宇宙のダイナミクスの理解を大きく進めてきましたが、まだまだ多くの謎が残されています。その多くは、宇宙が誕生して間もない時期の状態に関するものです。
今回の発見は、そのパズルに新たな一片を加えるものであり、まだ発見すべきことがいかに多いかを改めて思い知らすものとなりました。
「もし私たちの結果が一般的な傾向を示すものであれば、初期宇宙におけるブラックホールの質量は体系的に過大評価されてきた可能性があります。これは、宇宙進化モデルを再評価するきっかけになるかもしれません」
とHoenig氏はコメントしています。
Source: arXiv, Max-Planck-Gesellschaft