台湾攻撃の抑止が最重要目標 経済切り離しも視野 米国の対中政策をサター教授に聞く

24日、アジア外遊への出発を前に記者団の取材に応じるトランプ米大統領=米ホワイトハウス(ロイター)

米中関係のうねりが全世界を揺るがしている。トランプ米大統領は今、どんな真意で中国と対峙(たいじ)するのか。米国の歴代政権で長年、対中政策を担ってきた中国研究の重鎮ロバート・サター氏が産経新聞のインタビューで見解を語った。サター氏はトランプ大統領が軍事面での対中抑止を最重視しながらも台湾有事での具体的な対応を明確に語らない政策を選ぶ一方、経済面では現在の関税問題での対立を超えてなお中国とのデカップリング(切り離し)を選択肢に含めている―などと語った。主なやりとりは次の通り。

2026年度の国防費は152兆円超

――トランプ大統領の対中政策をどう見るか

「第2次トランプ政権の対中政策での最大の特徴は、中国抑止を主目的とした防衛力増強だといえる。2026年度の国防費は史上初の一兆ドル(約152兆円)超で、その主眼は欧州や中東ではなくインド太平洋での中国の軍事拡張(への対応)、特に台湾攻撃の抑止を目標としている。その軍事政策の具体的部分をトランプ大統領自身が語ることは少ないが、トランプ陣営全体として、さらに議会の多数派も対中軍事増強策を明確かつ強固に支持している」

ジョージ・ワシントン大学のロバート・サター教授

――トランプ氏の対中国軍事抑止の理由は

「中国による米国主導の『法の支配』に依拠した国際秩序への挑戦、特にアジア太平洋での覇権確立の阻止だといえる。中国の一貫した大軍拡、南シナ海などでの軍事拡張、近隣国への威圧、米国の高度技術の窃取、米国の政治や社会への浸透などトランプ大統領は具体的に語ってきた」

中国経済の弱体化固定を狙う

――軍事以外でのトランプ氏の対中姿勢はどうか

「関税引き上げで中国に対する米国の経済的立場を強化することが当面、最大の目的だといえる。経済面での米国の中国依存、たとえばレアアース(希土類)などでの依存を減らす意図がある。その基盤には中国との経済の絆を断つデカップリングという発想もあるが、これを進めるかについては大統領自身が明確には決められない。習近平国家主席との直接の会談で中国経済の弱体化を固定しようとするだろう」

――台湾有事に関するトランプ氏の真意は

「トランプ氏は中国が台湾を攻撃した場合にどうするかを具体的には語らない。また、最近は台湾の防衛努力の不足を批判し、頼清徳総統の米国立ち寄りを拒むなど台湾と距離を置くような対応もみられる。しかし、具体的な行動を語らないのは台湾関係法の戦略的曖昧性に起因するともみられる。また政権内の側近は米軍の台湾防衛を明確に語っている」

――対中政策での日本への期待は

「大統領には対中政策で同盟国、友好国の利害を丁重に扱わない側面もある。だが、対中抑止での日本の防衛強化や経済面での対米協力への期待はあるだろう。その期待を表面に出して日本に圧力をかけるという方法はとらないと思う」

(ワシントン 古森義久)

ロバート・サター氏 米国の共和、民主両党政権で国務省、国家情報会議(NIC)、中央情報局(CIA)などの対中政策部門に約40年間在籍した。現在はジョージワシントン大学の教授を務め、中国の外交や安全保障についての研究を続けている。

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