履歴書に多様性関連の経験、今やキャリアの足かせ-米国で強まる逆風

7回にわたる厳しい面接を受けた末、デービッド・ダニエルズ4世氏は採用担当職での内定が目前だと感じていた。しかし結果的に内定には至らなかった。最終段階のリファレンスチェック(前職照会)で、多様性・公平性・包摂性(DEI)関連の経歴が話題に上り不安視されたことを後で知った。

  ニューヨーク在住でヨガウエア小売り大手ルルレモン・アスレティカなどで働いた経験を持つダニエルズ氏は、履歴書にDEIの文字があることが、ただでさえ厳しい雇用環境の中で「烙印(らくいん)」のように感じられると話す。「DEIに関わっていた人は採用したくない、という空気がある」という。

  数年前まで、多様性分野での経験は米雇用市場で「引く手あまた」を意味した。しかし今や、足かせになっている。

  多様性推進の取り組みが排他的だと保守派に批判され、トランプ米大統領が「違法なDEI」と呼んで攻撃したことを受け、企業の間で見直しの動きが広がった。訴訟や政府契約喪失への懸念から、多くの企業が多様性部門の縮小や解体へと急速にかじを切っている。

  職を失ったDEI専門職は、厳しい雇用市場の中で行き場を失い、限られた職を巡って競い合う状況に置かれている。

  DEIの専門家たちは、数年前に比べて採用担当者からの関心が薄れ、企業による面接の機会も減っていると話す。採用の可能性を少しでも高めようと、履歴書から「DEI」の3文字を削除したり、人事、広報、マーケティングなどDEIに直接関わらない関連業務への転職を模索したりする動きが出ている。中には、全く別の職種への転身を検討する人もいる。

  ペンシルベニア大学ウォートン校の経営学教授ピーター・カペリ氏は「これほど急速かつ完全に陳腐化したスキルセットは記憶にない」と述べた。

  ニューヨーク在住のホスエ・メンデス氏は、WPP傘下の広告代理店オグルヴィの多様性推進チームで働いていた。黒人男性社員向けリーダーシッププログラムでチームが業界の賞を受賞した数週間後の6月、同氏は解雇された。その後は求人情報を探し回り、就職フェアに参加する日々を送っている。

  ある採用担当者との対話は順調に進んでいたとメンデス氏は語る。だが、自身の多様性分野での経験に触れた途端、空気が一変したという。「急に冷え込んだ」と振り返った。「DEI関連の仕事の経歴が少しでもあると、相手は距離を置こうとする」。通話は予定より早く終わり、後に採用担当者から選考外になったと伝えられた。

  冷たい反応が続く中でも、メンデス氏はこの分野にとどまりたいと考えている。しかし、ここ2年で2度も多様性関連の職を失った経験がトラウマとなり、今後のキャリアを守りたいという思いが強まった。職業訓練校への進学や、職場における人間行動の研究、経営学修士号(MBA)取得のための大学復帰なども検討しているという。

  一部の大企業は依然として職場の多様性推進に公に取り組む姿勢を示している。デルタ航空サウスウエスト航空コカ・コーラなどは、公式サイト上にDEIの名称を残している。また、退役軍人や障害者の雇用促進に重点を移す企業も出てきた。

  しかし、過去1年で方針転換の波が広がっている。アマゾン・ドット・コムは一部プログラムを停止し、マクドナルドはDEIの目標設定をやめた。ゴールドマン・サックス・グループも、多様な取締役を持つ企業に限定して株式公開の業務を引き受けるという方針を撤廃した。

  企業の間では、法的リスクが今年最大の懸念事項になっていると、企業の多様性や社会課題に関して助言するキャップEQ(CapEQ)のタイニーシア・ボイヤロビンソン氏は指摘する。「多くの企業が法務担当者に相談し、訴訟を回避するためにどうすればよいかを尋ねている」と語った。

  求人情報にもこうした変化が反映されている。労働市場分析を行うリベリオ・ラボ(Revelio Labs)によると、今年の多様性関連職の新規求人は約1500件と、2019年の水準のほぼ半分に減少した。DEIブームが最盛期だった22年には、19年比で約4倍の1万件近くまで増えていた。

  ニューオーリンズ在住のビクトリア・パーソン氏は、昨年末に多様性推進を支援するコンサルティング会社での職を失って以来、新たに立ち上げたコンサルティング事業の顧客を探すために地元商工会議所が主催するネットワーキングイベントに参加しながら、転職活動を続けている。

  パーソン氏によると、自身が15年にわたり多様性の分野で働いてきたと話すと、相手は気まずそうに笑ったり、話題を変えたり、あるいは同氏の肩越しに別の相手を探そうとしたりするという。「人々が一歩引くのを感じる」と同氏は語った。「この話題に関する恐怖感がある。関わりたくないと思う人が多い」という。

  それでもパーソン氏は、現在の停滞を経て、多様性プログラムがより強く、一段と包摂的な形で復活し、特定の集団ではなく全ての層を対象とする取り組みになることを願っている。

  ニューヨークでは、ダニエルズ氏が求職活動を続けている。多様性への政治的反発が比較的穏やかな英国のクライアントなどからコンサルティング業務を請け負いつつ、オンラインプロフィールから「DEI」の肩書を外したところ、面接の機会が増えたという。ダニエルズ氏は、面接で何度も「企業が多様性を重視していなくても問題なく働ける」と繰り返し説明し、採用担当者を安心させる必要があったと話す。

  DEIへのコミットメントの後退が続く中でも、ダニエルズ氏は長期的な視点を持とうとしている。社会正義を巡る議論には潮の満ち引きがあるとし、「米国は昔からこういう国だ」と語った。

原題:Having DEI on a Resume Has Become a Career-Killer, Workers Say (1)(抜粋)

— 取材協力 Kelsey Butler

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