韓国のスクラムジェット極超音速巡航ミサイル「Hycore」が初の発射試験に成功(JSF)
2025年9月4日、韓国ADD(국방과학연구소、国防科学研究所)が開発中のスクラムジェット極超音速巡航ミサイル「Hycore(하이코어)」が初めて発射試験を行い成功したと報じられました。最高速度マッハ6.2、最高高度23キロメートルを記録、初期試験の目標を達成したと伝えられています。
- 左写真:発射直後の「Hycore」
- 右上写真:第1段固体燃料ロケット・ブースターを投棄
- 右下写真:発射試験ではなく風洞試験の様子と思われる
※마하 6.0:マッハ6.0
※흡입구 starting:吸入口 starting
韓国が開発中のスクラムジェット極超音速巡航ミサイル「Hycore」は2021年12月3日、韓国防衛事業庁の主催で開かれた国防科学技術大祭典で初めて模型と共に開発計画が公表されました。この開発計画では2030年までに戦力化する予定となっています。
「Hycore」スクラムジェット極超音速巡航ミサイル(韓国)
- 全長:8.7メートル(2021国防科学技術大祭典で公表)
- 重量:2.4トン(2021国防科学技術大祭典で公表)
- 速度:マッハ6.2(2025年9月4日、第1次発射試験)
- 高度:23キロメートル(2025年9月4日、第1次発射試験)
- 射程:不明
※固体燃料ロケットブースター2段+液体燃料スクラムジェット推進体の合計3段
※スクラムジェットのエアインテイクに蓋をせず、ブースト加速中はインターステージ(ブースターとの接合部分)の横穴から空気を抜く方式(ミサイル模型や宣伝動画の描写から)
関連:韓国ADDの極超音速スクラムジェット巡航ミサイル(2021年の筆者まとめ)
スクラムジェット(Scramjet)とは「Supersonic combustion ramjet」の略語であり、意味は「超音速燃焼ラムジェット」です。吸入空気を超音速の状態で燃料と混ぜ合わせて燃焼させて、飛翔体はそれ以上の極超音速(マッハ5以上)を発揮します。
- ラムジェット:亜音速燃焼、飛翔体は超音速(マッハ5が限界)
- スクラムジェット:超音速燃焼、飛翔体は極超音速(マッハ15が限界)
※ただしスクラムジェットの理論上作動限界マッハ15は水素燃料によるもので、軍事用に使える扱いやすい炭化水素燃料(石油系のジェット燃料)を使用した場合は理論上作動限界がマッハ8前後になる。
ロシアのスクラムジェット極超音速巡航ミサイル「3M22 ツィルコン」
なおロシアが世界に先駆けて2023年1月4日にスクラムジェット極超音速巡航ミサイル「3M22 ツィルコン(3M22 Циркон)を実戦配備し、最高速度マッハ9・最大射程1000キロメートルと発表しています。ただしこれは炭化水素燃料を用いたスクラムジェットの理論上作動限界の上限付近かそれを超える領域であり、本当にこの速度で水平巡航しているのか疑わしい面もあります。
なおツィルコンの大きさは未公表ですが艦船用垂直発射システム「UKSK」に収納可能なサイズなので、重量の上限は3トン級になると推定されています。
ツィルコンはロシアが侵攻中のウクライナの戦場で試験投入が何回か行われており、既にウクライナ側で残骸が回収されていますが、解析したところスクラムジェットエンジンと言えるような要素が発見できず、「攻撃に使用されたのはツィルコンではなくオーニクス超音速巡航ミサイルの射程延伸型では?」「そもそもツィルコンはスクラムジェットではないのでは?」という憶測が流れていますが、はっきりとしていません。
“The Russians initially claimed the Zircon had an operational scramjet,” noted William Freer, a research fellow in national security, Council of Geostrategy, though “subsequent evidence from wreckage of Zircon missiles in Ukraine shows that this claim was false, it uses a ramjet engine.”
「ロシアは当初、ツィルコンにはスクラムジェットエンジンが搭載されていると主張していた」と、地政学評議会の国家安全保障研究員ウィリアム・フリーア氏は指摘した。しかし、「その後、ウクライナで発見されたツィルコンミサイルの残骸から、この主張は誤りで、ラムジェットエンジンを搭載していることが判明した。」
※この分析が正しいとは限らない。しかし公開されているツィルコンらしき残骸からスクラムジェットエンジンの特徴が見えてこないことも事実である。またウクライナ軍のレーダーでもマッハ9で「巡航」する飛翔体は一度も記録されていない。
日本のスクラムジェット極超音速巡航ミサイル「極超音速誘導弾」
日本も独自にスクラムジェット極超音速巡航ミサイルである「極超音速誘導弾」を開発中ですが、これは韓国やロシアの重量2.4~3トン級のものとは異なり、かなり大きなサイズとなるようです。中距離弾道ミサイル相当の大きさを持つ極超音速滑空ミサイル「島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)」と第1段ロケット・ブースターが共通となります。つまり発射重量は6~9トン、射程は2000~3000キロメートル級と推定されます。
防衛省・防衛装備庁の資料より「極超音速誘導弾」。対艦攻撃が可能なことが特徴・第1段目の大型ロケットモータを極超音速誘導弾のブースターと共通化し、当該事業における設計活動の大幅な低減を図る。
関連:防衛装備庁技術シンポジウム2023「極超音速誘導弾」※PDF
⑤極超音速誘導弾
取得プログラムの目的:本土等に展開し、着上陸侵攻事態に際して、我が領土から遠方の各海域の防空能力の高い敵船団及び重要艦艇を撃破し、また、遠方の既存施設を破壊して施設内の敵部隊等を撃破するために使用する極超音速誘導弾の早期装備化を実現することにより、相手方の脅威圏の外から対処可能なスタンド・オフ防衛能力を強化することを目的とする。
出典:防衛装備庁:プロジェクト管理対象装備品等の現状について(取得プログラムの分析及び評価の結果の概要等) 令和7年4月17日 ※PDF
※「本土等に展開し」、つまり「等」とあるので本土に限らない。よって北海道が含まれる。
※「敵船団及び重要艦艇を撃破し」、第一任務は対艦攻撃。重要艦艇とは空母や揚陸艦。
※「遠方の既存施設を破壊して」、遠方にある「既存施設」である敵目標、つまり大陸の航空基地や軍港などの意味。
このように「極超音速誘導弾」は複数の公式資料から射程が非常に長いことが分かります。少なくとも1200km以上は飛べないと「本土等に展開し」て南西諸島の戦場への有効射程を発揮できないですし、北海道から発射するならば2500km以上の射程が要求されます。