ホンダ三部氏の目に映る日産「救済」の損得、EV化加速が迫った決心
「厳しい」-。日産自動車との持ち株会社設立計画を発表した23日の記者会見で、相手のどこにいつ魅力を感じたのかを問われたホンダの三部敏宏社長は、適当な言葉を探すのに少し苦労したようだった。
このやり取りに会場からは苦笑いが漏れたが、三部氏の返事が意味するのは、なぜ経営不振の日産を実質支援する計画に同意したのか、それによって何を得られるのかという、ほとんどの人がひっかかりを感じた厳しい現実だろう。
中国や欧州の一部地域で電気自動車(EV)の普及が急速に進み、ハイブリッド車(HV)の人気が復活していることもあり、ブランド同士が手を組むことの意味も正当化される。日産の工場や人材、知的財産を得ることで、少なくともホンダは厳しい競争に勝つための力を増強できるのだろう。
「間違いなく規模のメリットはあって、人々は注目せざるを得ないだろう」。コンサルタントのアリックス・パートナーズで自動車・産業部門のパートナー兼マネージングディレクターを務めるニール・ガングリ氏はこう話す。同氏は「両社ともEVで遅れており、中国メーカーの脅威という点では非常に補完的な関係だ」とみる。
共有化
ブルームバーグ・インテリジェンスによると、EVのプラットフォームやサプライチェーン、研究開発費の共有化は両社のコスト競争力につながる可能性がある。
日産は2010年に世界初の量産EV「リーフ」を開発し、世界で50万台以上販売した。だが、当時の勢いはもう見る影がない。内田誠社長は、ホンダの協力も得ながらEVのラインナップを拡充する計画を打ち出した。
ホンダと日産は今年3月、電動化やソフトウエアプラットフォームなどの領域での提携を発表した。ソフトウエア定義車両(ソフトウエア・ディファインド・ビークル、SDV)が必ずしもEVである必要はないが、消費者が自動運転やモバイル接続などの最新技術に期待するだけに、EVであることは大事なアピールポイントとなる。
日産には日本で最も売れた軽のEV「サクラ」がある。いくつかのラインアップを展開するハイブリッド技術「イーパワー」を搭載した車両も、日本では比較的好調だ。
日産とホンダに三菱自動車が加わることとなれば、持ち株会社計画はさらに魅力的になるだろう。三菱自はプラグインハイブリッド車やスポーツ用多目的車(SUV)が新興市場で人気だ。
課題と望み
マッコーリー証券のアナリスト、ジェームズ・ホン氏は、両社の計画について「生産能力の最適化を伴わない」のであれば意味がないと警告する。中国における両社の生産能力はともに過剰で、「今すぐ最適化すべき問題」だからだ。
一方、ガングリ氏は、両社には「補完的な事業よりも重複の方が多い」と問題を提起する。相乗効果を得るためには重複部分も必要だが、競争上の優位性を確保するには補完的な事業も重要だからだ。
ホンダは30年までにHV販売年間130万台という目標を掲げる。中国以外で23年に販売した65万台のほぼ2倍だ。26年には2つの車両生産プラットフォームと、より効率的で収益性の見込める2種類のパワートレインを導入する計画だ。
日産の北米での収益悪化は、魅力的なHVがないばかりか、時代遅れのラインナップしかなかったからだ。米国では、ほぼ4割にあたる約1000のショールームで上期に損失計上した。だが、ホンダが投入を計画するHVを日産も搭載できれば、問題解決につながる可能性もある。
短期的にホンダとの計画が進行することで、日産の財務状況がどう変化するか見通しづらいが、ホンダの二輪車事業はある種の救いとなる可能性がある。同社の二輪車事業は利益率が高く、9月30日までの3カ月で東南アジアを中心に530万台を販売した。
だが、これらを傘下に収めることになる持ち株会社の上場は早くても26年8月以降の予定で、長い道のりだと認めざるを得ない。
ガングリ氏は、両社の描くシナリオの裏で経済産業省がどんな役割を果たしているのか分からない状況は「曖昧さ」があると言わざるを得ず、「これほどの規模の統合だと、うまくいくかが判明するまでに3ー5年かかるだろう」と予想する。