海運も「脱炭素」へ、アンモニアなど次世代燃料への「つなぎ」のはずが…LNG船が脚光

 海運大手で、重油より二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない液化天然ガス(LNG)への注目度が高まっている。欧州連合(EU)で新たな環境規制が始まるなど、脱炭素への対応が急務となる中、水素やアンモニアといった次世代燃料の普及のメドは立っていない。次世代燃料への「つなぎ」とみられていたLNGに頼る運航が当面、続きそうだ。(鈴木瑠偉)

クルーズ・貨物

 日本郵船傘下の郵船クルーズは7月から、乗客数744人の大型クルーズ船「飛鳥3」の運航を始める。国内クルーズ船としては初めて、LNGを燃料として使うのが特徴だ。

1月にドイツで行われた「飛鳥3」の進水式=郵船クルーズ提供

 船の燃料には、保管が容易で、供給網も整った重油が広く使われてきた。代わりにLNGを使えば、CO2の排出量を重油よりも約2割削減できるとされる。郵船クルーズの遠藤弘之社長は「環境対応を進めなければ、将来運航できなくなりかねない」と話す。

 LNGの利用は貨物船でも広がる。商船三井はLNG船37隻の整備を進めている。EUが今年1月から、域内の港湾を発着する船への環境規制を強めたことを受け、欧州航路などで活用する。川崎汽船も17隻の整備を進めている。

「燃料の交代遅れそう」

 国内の海運大手は2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げている。LNG船も環境対応の取り組みの一つだが、化石燃料であるLNGを使い続けていては脱炭素にはならない。各社は30年頃までLNGを使ってCO2削減を進め、アンモニアや水素といった次世代燃料が本格的に普及するまでのつなぎとする計画だった。

船舶向けの次世代燃料普及には課題が多い

 だが海運業界では最近、「想定より燃料の交代が遅れそうだ」という見方が広がる。次世代燃料の実用化が難航しているためだ。

 課題の一つが、製造過程でCO2を排出しない「グリーン燃料」とするために、膨大なエネルギーが必要になる点だ。運輸総合研究所によると、世界の船舶燃料すべてをグリーン燃料で賄うには、2万キロ・ワットの大型風車7万基相当のエネルギーがかかる。欧米では計画の縮小や撤退が相次ぐ。

「本命いない」

 海運各社の対応は分かれる。日本郵船は26年11月のアンモニア船運航開始に向けて建造を進める。曽我貴也社長は「アンモニアが主役になる」とみていち早く投資を進め、アンモニアを業界全体に広げる考えだ。

 一方、商船三井は35年に温室効果ガス実質ゼロの外航船を130隻とする方針だが「本命は出てきていない」(橋本剛社長)ため、使う燃料を決めていない。川崎汽船も、新たな燃料に対応した船の具体的な建造計画がない。

 次世代燃料での運航には、船を造るだけではなく、燃料を安定して生産・供給できる体制の整備が不可欠だ。船会社には「燃料が補給できるかわからないのに船を発注できない」との声もある。

 ただ、中国や韓国でもアンモニア船の開発は進む。中国は、大連港を中心にバイオ燃料の製造拠点整備を進めるなど、燃料製造でも存在感を増す動きがある。

 運輸総合研究所の大坪新一郎特任研究員は「次世代燃料の普及は世界的な課題だが、ビジネスチャンスでもある。技術的なリードを失わないよう支援を強化する必要がある」と話す。

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