「ウナギは絶滅しない」水産庁の反論は本当か 公式文書から消えた文章
欧州連合(EU)が6月下旬、ウナギ全種について絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引を規制する「ワシントン条約」の対象とするよう提案した。水産庁は猛反発しているが、国が毎年公表しているニホンウナギの資源評価リポートの一部から「ある文章」が消えるなど不可解な実態も浮かび上がる。EUとの対立からうかがえるウナギ資源管理の現状と課題とは。
◇資源量は「十分」?
「ニホンウナギは十分な資源量が確保され、国際取引による絶滅のおそれはない」
EUによる規制強化提案(6月27日)に先立つ23日、水産庁は庁内で記者向けに勉強会を開催した。配布した資料では「事実関係」として、EU側への反論を赤字などで強調する力の入れようだった。4日後には小泉進次郎農相も、閣議後記者会見の場で水産庁の主張をなぞる形で同様の認識を示した。
ワシントン条約では規制対象の動植物を「付属書」に掲載する仕組みで、EUは「付属書2」への掲載を提案した。国際取引自体は可能だが、科学的助言などに基づき輸出国が発行する許可書が必要となる。ヨーロッパウナギは2007年に掲載された。ニホンウナギは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅リスクが2番目に高い「絶滅危惧ⅠB類(EN=危機)」に指定されていることも、EUの提案理由になっている。
日本は供給の多くを輸入に頼る。掲載されると輸出入手続きに新たな手間とコストが発生し、国内流通に影響が出る恐れがあると水産庁は主張している。そのため、水産庁は研究者による最新の論文を根拠に、資源は回復傾向にあると反論。「危機(EN)に該当せず」として、IUCNの科学的評価も否定した。政府は11月からウズベキスタンで開催される締約国会議を前に、否決に向けて加盟国に働きかける姿勢を示している。
消えた文章
そんな中、水産庁の姿勢に疑問符が付きかねない事案が露見した。
水産庁は所轄の研究機関「水産研究・教育機構」に、ニホンウナギの近年の漁獲量や資源状態などの調査を委託。19年度以降、日本語・英語両方のリポートが公表されている。毎年、稚魚のシラスウナギの個体数減少傾向について記載していたが、25年4月公表の英語版のみ、その記述がすっぽり欠落していた。
水産庁は外部からの指摘で、7月9日になって英語版に当該記載を加えて修正した。毎日新聞の取材に対し「事務的な手違いで故意ではない」と釈明する。
しかし、EUが「付属書2」への掲載提案について日本を含む各国と協議を始めたのは、リポートが公表される前年の24年11月だった。資源減少はEUの提案の動きを前に「絶滅のおそれはない」と主張したい水産庁にとっては不利になる情報だ。なるべくEU側の目に触れないよう英語版から削ったと疑念を持たれかねない。
◇「将来に禍根を残す」
リポートを巡る「不手際」に加え、資源減少の記載があるにもかかわらず、「回復傾向で絶滅する恐れはない」とする水産庁。ただ依拠する論文にも専門家から疑問の声が上がる。
「水産庁は行政に求められる『証拠に基づく政策立案』をないがしろにしている。今後の施策のための足場を自分たちで壊しており、このままでは将来に禍根を残す」
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