【コラム】米経済の見通し、霧は深まるばかり-エラリアン
ウォール街のアナリストやエコノミストは米国経済について、短期的にはより不安定な軌道をたどるとの見方でまとまりつつある。成長率が当初予想より低くくなる一方、インフレ圧力は増大し、国際経済および金融の相互作用は複雑さを増すとの見立てだ。一方で、長期的な見通しについては依然として意見の隔たりが大きい。米国の「優位性」が強まっていると主張する人もいれば、それが損なわれていると懸念する人もいる。
最近の一連のソフトデータからは警告サインが出されており、14日発表の米ミシガン大学消費者マインド指数でもそれは顕著となった。消費者信頼感、家計状況に対する消費者の見方、インフレ期待はいずれも悪い方向に進んでいる。これらの兆候はすでに一部のハードデータにも反映され始めており、2025年の成長予測には大幅な修正が必要になるとみられる。
2025年の米経済成長率見通しを2.7%とした国際通貨基金(IMF)の予測は忘れよう。むしろ、この予測やその他の予想が今後数週のうちに2%以下に引き下げられると見込むべきだろう。ゴールドマン・サックス・グループはすでに、今年の米国内総生産(GDP)予想を1.7%増に下方修正している。
成長見通しを引き下げる理由は増えている。トランプ政権が打ち出す関税措置や政府効率化省(DOGE)の動きが政策の不透明感につながり、それが低所得者層の消費を巡る懸念を深めている。トランプ政権当局者の発言にも変化が見られる。当初は「何も問題は見受けられない」という説明が中心だったが、最近では、経済の「デトックス」に伴う「若干の混乱」に変わった。
アナリストやエコノミストは遠からず、株安に伴う逆資産効果についても懸念するようになるだろう。好ましくないインフレ動向により、米金融当局の大幅利下げ余地が制限されるであろうことも明白になる公算が大きい。
こうした中、米経済の先行きは険しいとの見方では一致が見られるものの、どこに向かっているかについての意見はかなり分かれている。今後数週間のうちに、さらに見解が分かれる可能性もある。
一部には、米国の長期的な見通しを改善するための「過渡期」だとの声がある。民間部門の効率化、政府機関の合理化、反トラスト規制の緩和、減税、エネルギーコストの低下、債務の抑制がもたらされるとの主張だ。また、製造拠点の米国移転が増え、貿易がより公平なシステムの下で行われるようになり、世界の安全保障への関与で米国が負担するコストが減るとの見方も、そうした声の論拠となっている。
他方、米国が長年培ってきた構造的な強みが損なわれつつあると懸念する声もある。事業環境が不透明になり、法の支配が一貫性を欠くことで、民間部門の活動に長期的な打撃が及び、経済成長が停滞することで債務負担も増大するという主張だ。こちらの論陣を張る人は行政改革による効率化を疑問視しており、貿易関係が再構築される中で米国が世界経済で果たす中心的な役割は弱まり、ドル離れにもつながるとみている。
米経済の短期的な見通しについてはコンセンサスができつつあるが、その先の米経済の行方を判断するのは時期尚早だ。明白なことがあるとすれば、米国の動きに世界が対応し続ける限り、米経済の前途は厳しさが増すということだろう。
原題:The US Economic Outlook Is Even More Uncertain: Mohamed El-Erian(抜粋)