サメ、長い沈黙を破る。世界初、サメが出すクリック音を記録
マウスのクリック音みたい。サメなのに。
サメといえば、静かに忍び寄る「沈黙の捕食者」というイメージが強いかもしれません。映画『ジョーズ』のような迫力のある音楽は、あくまで演出。でも最近、そんな固定観念をひっくり返す「本物のサメの音」を科学者たちがとらえたようですよ。
ニュージーランドの沿岸に生息するホシザメの仲間で「リグ」と呼ばれるサメ(Mustelus lenticulatus)が水中で驚いたときに発する「クリック音」を世界で初めて記録しました。この発見は、サメは音を出さないというこれまでの常識をくつがえすもので、研究者たちを大いに驚かせました。
水槽実験で発見された「音を出すサメ」
学術誌Royal Society Open Scienceに掲載された研究を主導した海洋生物学者のCarolin Nieder氏は、ニュージーランドのオークランド大学で博士課程に在籍いた時にこの現象に気づいたそうです。なんでも、実験中にリグを手で扱ったときに、サメが短い高周波の音を発し始めたのをきっかけに調査が始まったのだとか。
音の正体を確かめるため、Nieder氏と研究チームは、リグの稚魚10匹を1匹ずつ水中マイクを備えた水槽に入れ、手で20秒間抱えて観察しました。その結果、すべてのサメがクリック音を出したそうです。
特に、最初の10秒間に多くの音が記録され、後半には減った(下の音声をチェックしてください)ことから、この音はサメが驚いたときの反応である可能性が高いとのことです。
これまで、音を出す魚の多くは、浮き袋を振動させて音を発するとされてきました。ところがサメにはこの器官がないんですよね。にもかかわらず音をたてるという事実は、研究者にとっても予想外だったようです。
最初は何の音なのかわかりませんでした。サメは音を出さないはずですから。帰宅してからも、その音がどれだけ奇妙だったかを何度も思い返していました。
と、Nieder氏は当時の驚きを振り返っています。
歯を鳴らして音を出す?
では、浮き袋なしにサメはどのように音を出していたのでしょうか? 研究チームは、リグのあごと歯を3Dで再構成することで、その謎に迫りました。
リグの歯は、平らな形をした歯がモザイクのように重なり合っていて、カニの殻を砕くのに適した構造になっています。あごを噛み合わせたときに歯がぶつかってクリック音を生み出しているのではないかと研究チームは仮説を立てています。
この音の周波数は、リグ自身には聞こえにくいのですが、リグを捕食するハクジラには届く範囲にあるといいます。また、タラのような魚がアザラシを驚かせるために同様の音を出す例もあり、もしかすると、サメの音にも防御的な意味があるのかもしれません。
もっと多くのサメの「声」に耳を澄ませるべき?
今回の研究に参加していないウィンザー大学の海洋生物学者であるDennis Higgs氏は、この論文は一部のサメが音を発するという説得力のある事例を提示しているとしたうえで、そのクリック音がリグにとって通常の反応なのか、それとも人に触られたときなど非常時だけの反応なのか、また、自然環境のなかでも同じような音を発するのかを調べる必要があるとしています。
Nieder氏も同じ見解で、今後はさらにリグや他のサメを自然環境で観察し、どのような条件で音を出すのかを探る実験を予定しているそうです。
ちなみに、近年では同じ軟骨魚類であるアカエイやガンギエイも似たようなクリック音を出すことが観察されています。
また、サメとエイが2億年以上前に分岐していることから、音を出す能力は、軟骨魚類に古くから備わっている共通の特徴かもしれないそうです。
Higgs氏はこう語ります。
以前は、これらの魚たちは音を出せないと思っていましたが、それは間違いだと証明されました。より多くの種類のサメに耳を傾ける価値がありそうですね。
Source: Scientific American