経営「AIでラクして早く帰って」→社員「帰らない」 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁
8月3日、はてな匿名ダイアリーに「AIで仕事を効率化したら、なぜか僕の仕事だけ増えた話」という記事が載り、SNSで話題になった。周囲から「真面目だ」と言われてきた投稿者が、良かれと思ってAIの活用法を検証し、社内に共有してきた話だ。しかし、8時間の仕事を4時間に縮めると、次からその仕事は「4時間で終わる仕事」になり、残った4時間には別の仕事が入る。 結局、「8時間働いていた人がAIによって4時間で帰れる」のではなく「8時間で1件やっていた人が、8時間で2件やる」ことになるだけだった、と投稿者は書く。共有した本人には説明や教育、質問対応が集まり、給与は変わらない。投稿者は自分を「迷惑なサンタクロース」と呼んだ。 「THE日本企業あるある」という共感と、AIで書いた作り話ではないかという反発で反応は割れた。だが、短縮した時間が別の仕事に使われ、労働時間の短縮に直結しない傾向は、調査にも表れている。AIで浮いた時間は、誰が何に使っているのか。
パーソル総合研究所の「生成AIとはたらき方に関する実態調査」によると、生成AIで個々のタスクにかかる時間は平均16.7%(週26.4分)短くなった。しかし、業務時間そのものが減った利用者は25.4%にとどまる。 業務時間を削減できた人は浮いた時間の61.2%を仕事に使っており、その時間で仕事をすると答えた人の75.4%が使途に日常業務を挙げた(複数回答)。タスクが速くなった分だけ早く帰れるという関係にはなっていない。 同研究所の田村元樹氏(シンクタンク本部)は、労働時間の枠が変わっていないことが原因と見る。「ズバリ言うと、週40時間の労働は変わっていない」。タスクは速くなっても、週40時間という枠と業務の総量は見直されていない。 例えば既存タスクが、AIで100から50に減ったとする。そこに「AIの使い方を教える、社内に広める」といった新しいタスクが乗る。それが50なら総量は変わらず、100なら総量は150に増える。「効率化した分にさらにプラスのものができると、総量は150になる」と田村氏。仕事の量はもともと週40時間に合わせて組まれているから、そこに新しいタスクが乗れば枠からはみ出す。はみ出した分が残業になる。間延びした分だけ残業時間が増えるわけだ。 では、個人の作業が速くなった分は、会社の生産性の数字に表れているのか。田村氏は労働生産性の式に表して考える。分子は付加価値、分母はそれを生み出すのにかかった労働量で、生産性はその割り算だ。 田村氏の見立てでは、AIが縮めているのは分母の側だ。同じものを作る時間が半分になれば計算上の生産性は倍になるが、分子の付加価値が増えたわけではない。「AIを使ったから値上げします、とは絶対にできない」(田村氏) そして誰もが同じツールを使えば品質は一緒に上がり、差はつかないと見る。付加価値が増えず、週40時間の労働も変わらなければ、分母すら実際には減っていない。速くなったように見えているだけの場合もあるという。
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経営の側も同じ現象に直面している。DeNAは2025年2月に「AIオールイン」を宣言した。AIを活用して約3000人の現業を半分の人員で回し、残りを新規事業に振り向ける構想だ。南場智子会長は講演で、法務によるツール利用規約のチェックは9割、ライブ配信サービス「Pococha」の配信審査は6割の工数を削ったと語った。業務フローを書き換える1年がかりの作業だったという。 それでも、新規事業への人材シフトは思うようには進まなかった。楽になった分だけ、社員が自ら仕事を詰め込んだからだ。「DeNAのメンバー、真面目ですからね」──南場氏はそう語り、シフトが「思ったほど進んでいない」と認めた。 施策を担う金子俊一氏(グループエグゼクティブ IT本部本部長)も「仕事が早く終わっても、早く帰らないですよね、日本人って」と話す。金子氏は「楽になってサボってくれるなら、成果が出ているので全然ウェルカム。早く帰ってくれ」と社内で言って回っていたという。だが返ってきたのは「楽にはなっていない」という声だった。 金子氏の見立てでは、浮いた時間は資料の精度を上げる、プログラムを書く量を増やす、じっくりレビューする、といった仕事に流れていた。2週間に1回だった1on1ミーティングを、手が空いたので週1回にしたマネジャーもいる。「決して無駄ではない。ただ、時間が空いたらこれをやりたいと思っていたところに、どんどん作業工数が流れていっている」(金子氏) 社員から見れば、作業は倍の速度で回るようになった。だが「人をファイア(解雇)でもしない限り、人件費は減らない」──現場の生産性と経営指標のギャップは、時間がたてば埋まる種類のものではないと金子氏はみる。
浮いた時間が、本人のやりたかった仕事で埋まるなら、それを止められるのは本人ではない。田村氏は、組織として「減らす業務」を同時に検討していないことが一番の問題とみる。「(社員)個人が、この仕事をなくそうとはできない。会社やマネジャーなど、もう少し上のレイヤーからの仕組みや働きかけが必要」(田村氏) AIを広める仕事も同じ問題に直面している。会社はAIの導入まではするが「あとは現場で頑張ってね」と個人の善意に頼る。パーソルの調査でも、ヘビーユーザーほど関心の低い人に教える負担が大きく、その仕事は正式な評価にも業務にも位置づけられていない。「本当にボランティアワークだと思います」(田村氏) 解決策はあるのか──田村氏は組織が導入すべき4つの条件を提示する。(1)普及や推進を正式な業務に位置づけること、(2)そのための業務時間を確保すること、(3)(AIに関連する取り組みを)評価基準に入れること、(4)そして個人ではなくチームと上司の支援を受けること──だ。