ソフトバンクG出資の新興企業、創業者が謝罪-粉飾に至った経緯語る
ソフトバンクグループなどが出資したインドネシアの水産テクノロジー新興企業、イーフィッシャリー。同社の収益を水増しするに至った経緯を、ギブラン・フザイファ共同創業者がブルームバーグ・ニュースとのインタビューで明らかにした。
最高経営責任者(CEO)を解任されたギブラン氏によると、イーフィッシャリーが100人の従業員を抱える規模に成長したころ、資金はあと3カ月で底を突く状況に陥っていた。そこで、財務報告書に虚偽の数字を記入し始めたという。
それから1時間でギブラン氏は、5年間の努力では達成できなかった「成功」を少なくとも帳簿上で実現していた。いずればれるだろうと覚悟しながら、自分の会社を勝ち組に見せかけた報告書を投資家らに送信した。
ところが、意外なことに不正は発覚しなかった。
出資者らはイーフィッシャリーの業績が改善されているとみて、資金をさらに投入。知らずとはいえ、同社の破綻回避に手を貸した。こうして2018年後半、ギブラン氏は「砂上の楼閣」を築き始めた。世界の大手投資会社は大損失を被ることになる。
5時間に及んだインタビューでギブラン氏は、「何か悪いことをしている自分を鏡で見て、自分を誇らしいとは思わないだろう」と発言。「生き残るため、とにかくやるしかないと思った」という。
6年後、イーフィッシャリーは評価額14億ドル(約2000億円)、従業員数約2000人のアジアで最も有望なスタートアップの1社と見なされるようになった。生産性を高める自動給餌機の提供に加え、金融サービスにも事業を拡大した。
その後の実質破綻までに、同社はペーパーカンパニーや粉飾決算にまみれた多国籍企業に変貌。内部調査によると、24年1-9月の売上高は7億5200万ドルではなく、1億5700万ドルに過ぎなかった。
見抜けなかったのはソフトバンクGだけではない。シンガポールのテマセク・ホールディングスやセコイア・インディア・アンド・サウスイースト・アジア(現ピークフィフティーン)、アブダビの42Xファンドを含め、いずれも世界有数の投資会社が影響を受けた。各社はコメントを控えるか、回答しなかった。
こうして、少なくとも3億ドルの投資資金が失われた。個々のファンドが実際にどれほどの損失を被ったか不明な一方、保有株を高めの評価額で売却した可能性もある。
ギブラン氏はブルームバーグの取材に応じた理由として、資金を盗んでいないことと従業員の大半が事態を把握していたわけではなかったことを明言するためだと説明。「影響を受けた全ての人々に深くおわびしたい」と述べた。
孫氏の決断
ソフトバンクG創業者の孫正義氏がギブラン氏との会談を希望したのは21年。新型コロナウイルス禍の真っただ中だった。通常であれば、ギブラン氏は投資家を国内の養殖場に案内し、自社製の自動給餌機が現場でどのように使用されているのかを見せていたが、孫氏の場合はオンラインで1時間ほど面会する機会しかなかった。
ギブラン氏はインドネシアのオフィスで緊張していた。数年前まで同国の田舎で魚を育てていた自分が、今や中国の電子商取引大手アリババグループやヤフージャパン(現LINEヤフー)など名だたる企業に出資してきたソフトバンクGから関心を寄せられているのだ。
東京の自宅で話を聞いていた孫氏はわずか15分で話を切り上げ、出資を決断したとギブラン氏は振り返る。その後、企業価値は約2億ドルと評価された。同氏が興奮したのは言うまでもない。
ソフトバンクGはコメントを控えたが、事情に詳しい関係者は評価額を認めている。
間もなく、今度はセコイア・インディアから評価額3億ドル超の提案が舞い込んだ。テマセクからも連絡が入り、CEOのディルハン・ピレイ氏からチャット要請がメッセージアプリ「ワッツアップ」を通じて届いたという。両社はコメントを控えた。
ギブラン氏や関係者らによると、ソフトバンクG、テマセク、セコイア・インディアは最終的に9000万ドルの新規出資で合意。評価額は4億1000万ドルだったという。その3年前の評価額はわずか1200万ドルだった。
不正発覚の引き金
内部報告書によると、不正発覚の引き金となったのは、24年11月下旬に取締役に送られた1件の内部告発だった。そこには売上高や養殖場で使用されている製品数の違いなどが記されていた。
同年12月6日、ギブラン氏は取締役会に呼び出され、内部告発があったことを知らされる。「私にとって最も怖く、不安定な時期だった」と振り返った。夜も眠れず、その後の展開を恐れたという。
12月13日になると、取締役会の委員会はギブラン氏に停職を伝えた。口座を含めてイーフィッシャリーは暫定CEOが管理することになった。
インドネシアの養殖場も同月半ばから大きく影響を受けるようになる。イーフィッシャリーの自動給餌機が故障しても、同社の技術担当者が一時解雇されて直しに来られなくなった。
今年3月中旬にブルームバーグの記者が訪れた養殖場は再び手作業に戻り、管理できる養魚池の削減を余儀なくされた。管理者の月収は最高時の603ドルからせいぜい180ドル程度に落ち込んでいた。
インドネシアでスタートアップ業界の希望の星とされていたイーフィッシャリーの顛末(てんまつ)は、新規資本の流入を停滞させ、ベンチャーキャピタルによる従来型の投資モデルが新興国で本当に機能するのかという疑問を再燃させるリスクがある。
「今後1-2年で、5000万-1億ドル規模の投資減速があるだろう」と話すのは、ベンチャー投資会社クアルグロ・パートナーズのウェイシェン・ネオ氏だ。
取締役会はイーフィッシャリーの事業見直しと管理で、FTIコンサルティング・シンガポールを起用。「ビジネスはこのままの形では存続不能だ」として、FTIは事業清算と出資者への資金返還を助言したが、返金はあまり期待できそうにない。23年4月に1億ドルを出資した42Xに返ってくるのは830万ドル程度のもようだ。FTIも42X運用会社もコメントを控えた。
ギブラン氏が10数年かけて実現にこぎ着けた夢はこうして、3カ月もたたずに幻と消えた。事情に詳しい関係者によると、投資家が法的措置に訴える可能性はある。
不正行為に至った理由を問われると、ギブラン氏は「大きなインパクトを残したかった」とした上で、「たとえ小さくても、長く続くインパクトにすべきだとは考えもしなかった」と続けた。
原題:CEO Explains How He Faked Results in $300 Million Meltdown (抜粋)